雨雲と乱れる心
あれから星送りまでの数日間、何となく屋上に行くのをやめた。
これは避けてるとかではなくて、星送り当日に全てを託すためだから。
今度はちゃんと告白しようと思うし、しっかり台詞も考えた。何かこういうの本当にオレらしくない。
肝心のナマエはというと相変わらず午後の授業出てない。どうせ屋上でのんびりいちごミルクでも飲んでいるんだろう。
そんなこと思いながら手に持ったペンを回して窓の外を眺めて1週間を過ごした。
*
「あれ、エースちゃんちょっと早くない?星送りのイベントは19時からのはずだよ?」
「ちょっと用事できたんで!ケイト先輩は寮長たちと行ってください!」
ソワソワしながら寮を出ていこうとするとたまたまケイト先輩に出会って話しかけられた。
ケイト先輩からの言葉に適当に答えると、不思議そうな顔をした先輩を寮に残して学園裏の大樹に向かった。
大樹の周りには1時間前だけど既に生徒たちやメディアの人たちが集まっていた。みんな一年に一度の"星送り"を楽しみにしているのか、ソワソワしていた。
友達とワイワイする者やら、スマホ片手に自撮りしてマジカメにあげる者など様々だ。
ここからは見えないがデュースはどうせ緊張してガチガチだろうなと心の中で思う。
待ち合わせ時間を過ぎてもナマエが来なくてキョロキョロと姿を探していると後ろからオレを呼ぶ声がした。振り返ろうと思ったら両目を隠される。
「誰でしょう?」
「ナマエ」
「なんだ、分かってたんだ?トラッポラくん面白くないねー」
言い当てると両目から手が離れ、ナマエが後からひょこっと顔をだした。尻尾はゆらゆらと揺れていてどうやら機嫌は良いようだ。
「はあ、オレで遊ぶなよ」
「ごめんごめん」
ナマエはにやにやしながら気持ちの篭ってない謝罪をした。1週間ぶりに会う彼女は相変わらず掴めない。
「そういえば今日天候悪くなるって聞いたけど大丈夫かな」
「ヤバそうだったら学園長あたりが中止にしてるはずだし、大丈夫なんじゃない?」
心配そうに空を見つめるナマエをよそにオレの心拍数はどんどんと上がっていく。
ここでどのタイミングで告白するかを全く決めてなかったことに気づいた。台詞もしっかり考えたのにバカかオレは。
ここは終盤に手を握って言うのがベストか?いや、やっぱり今言ってしまった方が…。
「あれ、エースちゃんだ。先に行くって言うからどうしたのかなって思ってたんだけど、もしかしてカノジョちゃん?エースちゃん、カノジョちゃん居るなら何でオレに言ってくれないのー?けーくんショックー!」
ぐるぐると頭の中で思考を巡らせていると、間延びした声が聞こえた。やば、ケイト先輩じゃん。
今、ナマエといる所見られたら面倒くさい事になりそうだ。
もし後ろに寮長でも居たら「不純異性交友だ。ここは学びに来るところであって遊びではないんだよ」とか言われて説教されるかもしれない。
オレは、ギ、ギ、ギ、と油の挿してない機械のようにゆっくりと振り向こうとした。するとオレの横をするりと抜けてナマエが前に出た。
目の前にゆさゆさと揺れる尻尾がくるりとオレの腕に絡まった。
「はじめまして。トラッポラくんの彼女のナマエです」
「えっ、は?」
「やっぱり彼女ちゃんなんだー!虎模様の耳が素敵だね」
ナマエの言葉にびっくりして何も出ない。
ナマエがオレの彼女?何かの冗談か?もしかしてオレは今何か試されてるのか?
そんなオレを置いてけぼりにしてケイト先輩はテンション高めにお茶会のお誘いやら、好きな食べ物やら色々と聞き始めた。
「へえー、甘いもの好きなんだね。そしたらハーツラビュルにぴったりじゃん!エースちゃんの彼女なんだし、今度遊びにおいでよ」
「ありがとうございます。また今度、ハーツラビュルにお邪魔しますね」
「もちもち!いつでもおいで。あ、記念にエースちゃんとツーショ撮ってあげる!」
手に持っていたスマホをオレたち二人に向けたケイト先輩は、「もっと寄って」とか「エースちゃん、笑顔ぎこちなさ過ぎ!」とか文句をつけてきた。
そもそも脳内処理が追いついてないのに、笑顔で写真なんて撮れるかよ。
最終的にナマエの魔法で強引にピースをさせられ、あげく変な表情のまま写真を撮られた。
ケイト先輩はあとで送っとくね、と言うと寮長の所へ戻ってしまった。
そんな写真送られても困るっつーの。
「面白い先輩だね。あ、トラッポラくん写真後で私にも送っといてね」
するりと腕に絡まった尻尾が離れていく。戸惑いとドキドキが混ざった数分がようやく終わった。
そしてオレたちは生徒たちが沢山いる見物エリアを出て、周りに人がいない少し離れた所で星送りの儀式が始まるのを待った。
儀式が始まるまであと少し、だけどオレの頭はさっきの事でいっぱいだった。
「ね、さっきの、なに?」
「なにって?」
「ナマエがオレの、カノジョ?ってやつ」
「嫌だった?」
恐る恐る聞いたのに、オレの質問は質問で返された。首を傾げながら何の悪びれも無さそうなナマエの顔が少しだけムカついた。
ナマエの発言にいちいち一喜一憂して、勝手にドキドキして、振り回されて。
でもそれも悪くないと思うのは惚れた弱みだ。
「トラッポラくんはてっきり私に彼女になって欲しいと思ったんだけどな。違ったかあ」
「…いや、違わねーけど。違わねーけど!」
「ふふっ。ね、トラッポラくん…」
『星送りの儀式始まるみたいだぞ!』
『てか、雨雲迫ってきてるけど大丈夫なのか?』
ナマエが何かを言いかけたとき、星送りの儀式が始まるのか周りがザワつき始める。オレたちも大樹に視線を向ける。
結局、ナマエが何が言いたかったのかタイミングを逃してしまった。