満タンのポイントカード



「アンタも物好きッスねえ、まあオレ的にはありがたいんスけど」

そう言ってシシシと目の前で笑うハイエナに心を奪われてどのくらいだっただろう。あんまり覚えてない。
口角をあげた顔に胸がきゅんきゅんしてどうしようもない幸福感が襲う。

「ラギーくん、これ差し入れのドーナツ。よかったら休憩の時にでも食べて?」
「いいんスか?貰えるモンはありがたく貰うけど…」
「私がしたくてしてるだけだし。ラギーくんいつもアルバイト頑張ってるから」
「そしたら遠慮なく。今日もお会計までオレがしっかり接客するッスね」

そう言って、目の前に前菜とドリンクを置いていったラギーくんの後ろ姿はドーナツを貰って嬉しそう。その姿に私は頬を緩めた。


ラウンジこと、モストロラウンジでウェイター指名制度が始まったのはつい最近のこと。
フルコースか期間限定コートメニューを頼んだ人だけ前菜から会計まで指名したウェイターに接客してもらえる、という読んで字の如くの指名制度。
ラギーくん目当てで通ってる私にとっては嬉しい企画だった。ほんとアズールくんはいい商法を考えたと思う。
そのおかげかラウンジは大忙しらしくて、週2.3くらいだったラギーくんもほぼ毎日アルバイトに来てる。かくいう私もほぼ毎日ラウンジに通っている訳で。
それはもう、今日でポイントカードがいっぱいになるくらい。

「あれ、今日でポイントカード満タンじゃないッスか。ナマエちゃんはアズールくんに何を相談するんスか?」

お会計の時にラギーくんは慣れた手つきでカルトンにお釣りを置いて、スタンプカードを押しながらそう言った。

「…秘密」
「ええ〜。オレこんなにナマエちゃんにご奉仕してるのに?」

カードを持ったままレジカウンターに肘をついて少し上目遣いで見てるラギーくんの顔が可愛くてごっそり心臓ごと持っていかれる。

「いくらラギーくんだからって秘密だよ」
「ちぇ、残念。ナマエちゃんが叶えたいっていうお願い気になったんスけど、そこまで言われちゃあね?」

口を尖らせてそう言うラギーくんをそのまま見つめてると、アズールくんへのお願いを迂闊に言ってしまいそうで目を逸らした。
私が叶えたい事がラギーくん関連であることを私は一生本人には言うつもりはない。

「次、VIPルーム予約しとく?コレ、使うんスよね?」
「そうだね。ありがとう」

満タンになったポイントカードを私に返したラギーくんはタブレットを取り出して次の予約を入れてくれた。軽やかにタップしていく指を見つめる。

「じゃあ、オレ明後日いるんでその日に入れときますねえ〜」

ちゃっかり自分がいる日にしてくれるのも何かラギーくんの特別って感じがして嬉しくなった。そしてベストの内ポケットからカードを出して渡される。
少し崩れた特徴のある字で"ラギー・ブッチ"と書いてあるこのカードは指名カードみたいなもの。次に来たときにこれを出すと自動的に前回ウェイターがつく。
何とも便利なシステムだ。アズールくん曰く、これのお陰で私みたいなリピーターが結構増えたらしい。

「またね、ラギーくん!この後もお仕事頑張ってね」
「はぁい。気をつけて帰るんスよ〜」

私が軽く手を振るとそれに応えるようにヒラヒラ振り返してくれた。今日もかっこよかった、と噛み締めながら寮へ戻る。
こんな事してるから私の恋はいつまでも進展しない。そんなの分かってるけど、ラギーくんに何かあげるのがやめられなくて。半年以上こんなことをしている。

私は全部埋まったポイントカードをきゅっと握りしめて財布にしまった。これが今の状況を変えれる一手になればいいんだけど…。



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