秘密のメッセージ



赤色は愛情深く情熱的、何でもない日のパーティーの薔薇の色。
青色は冷たくて憂鬱、深い海の色。
黄色が明るくて人当たりのいい彼なら、緑は穏やかで優しい
ーー キミの色。




「はあ、あんたまだそんな気持ち悪いことやってたの?」
「き、気持ち悪くないよ!デッサンだよデッサン!」
「最近ようやくお近づきになったんだから本物見ときなさいよ」

そう言うと彼女は私の持ってた緑のスケッチブックをとりパラパラとめくり始める。彼女には何回も見られてるけど、やっぱり見られるのが恥ずかしくて奪い返す。

「相変わらず絵だけは上手いわよねえ。でも1個1個コメント付きなのが余計に気持ち悪さを引き立たててるけど」
「やめてよ、もう!」

彼女の手にあるスケッチブックを取り返して胸にぎゅっと抱き込む。気持ち悪いなんて、そんなの分かってるよ。
でも私の大事なものなんだから。

「そのスケッチブック落としたら死ぬわよ」
「落としたことないし、これからも落とす予定はないから大丈夫だよ。…多分」
「多分って言ってるようじゃ、そのうち落とすかもね?」

そう言うと大きなため息をついた彼女は部活があるらしく教室から出ていってしまった。

「落とさないよ、落としたら私の学園ライフはどん底になっちゃうよ…」

もし仮にこれを落としたとして持ち主が私だなんて分かったらもう学園中から引かれるに決まってる。そして私の楽しいスクールライフはいとも簡単に崩れ去るだろう。
手に持ってるこの緑のスケッチブックを捲り見返した。

そこには1人の男の子の様々な姿がひたすらにデッサンされていた。



*



正直、一目惚れだった。
初めて見たときに眼鏡の奥にある琥珀色の瞳、優しそうな表情、そしてがっしりとした肩幅と高い身長に異性を感じた。
気がついたら目で追ってて、彼の横顔とかをデッサンし始めてた。でも意気地なしな私は話しかけることなんて出来なくて、見てるだけで十分だった。


私が彼とまともに話したのは1年前の何でもない日のパーティーの準備こと。あまり接点がなかった私達はこの日まで話すほど仲良くもなければ、ただの同寮ってだけ。

そんな私は何でもない日のパーティーの準備にはいつも薔薇を赤く塗る班に配属された。
されたというか志願してるの方が正しいかもしれない。昔から絵を描くのが好きでこういう作業は割と好きだから。
パーティー会場の飾り付けだとか、お菓子作りとか、華やかなものよりこっちの方が私にとっても落ち着く。


「〜〜♪」

鼻歌を歌いながら薔薇を1つ1つ赤く塗っていたら、後ろから声をかけられた。
私に声を掛けた人物は、お菓子作り班のトレイくんだった。

「ナマエ、魔法が使えない訳じゃないだろ?どうして手作業してるんだ」

正直トレイくんから話しかけられるなんて思ってなくてびっくりした。どうやら私が手作業で薔薇を塗っていたのが気になったらしい。
手作業の方が好きで綺麗に塗れる、と言うとトレイくんは納得して自分も筆で塗ると言った。

「えっ、いいよ。薔薇塗りは私達の班の仕事だし。トレイくんこそお菓子作り班にいなくていいの?」
「思ったより早く終わってな。それで班のみんなで他のところの手伝いに来たって訳だ」

そう言うとバケツを持って薔薇の木1つ挟んだ向こう側で作業し始めた。器用に薔薇を赤く塗っていくトレイくんの横顔がとても格好良くてじっと見つめてしまう。
すごく絵になるから今すぐスケッチブックが欲しい衝動に駆られる。

「…ナマエ、そんなに見られたら俺に穴が空く。俺の顔に何かついてるか?」

そう言うとトレイくんは筆を持ってこっちを向いてニヤと笑った。どうやら私は随分長い間トレイくんを見つめていたらしい。
慌ててトレイくんから視線を逸して作業に戻るけど、トレイくんの笑った顔が頭から離れない。
トレイくんってあんな顔もできるんだ。私の顔はだんだん熱くなっていき、心臓が物凄くバクバク鳴っていた。
トレイくんと話していると、やっぱり見てるだけじゃ感じれないことばっかりだった。
優しそうな見た目でヒヤッとする冗談混ぜてくるところ、庶民派なところ。1つ1つが新鮮で、それがいっそう私をときめかせた。

「トレイくーん、こっち人手足りなくなってきたから手伝ってくんない?」
「ん、分かった。すぐ行く」

トレイくんが薔薇の木1つ分塗り終わったあたりでケイトくんが呼びに来て、トレイくんは行ってしまった。
"じゃあ、またな"と片手を上げて去っていくトレイくんに少し寂しく思う。
もっと話したかった。昨日まで見てるだけで十分だったのに、欲深い自分が少し嫌になる。
そして私物の画材セットから細い筆を出して1枚の花びらに文字を残した。
気づかれないと思うけど、でも気づいてほしくて。これが私の気持ちだから。
そっと文字の後ろにクローバーの絵を添えた。

“I’m under your spell.”

ーーー 私はキミに夢中です。


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