俺と宿儺にはお節介な幼馴染が居る。名前はなまえという。
昔から欲しいものや好きなものが被らない俺と宿儺だけど、たった一つ被ったのがなまえだなんてどんな皮肉だろう。爺ちゃんが居なくなってからお節介がひどくなった幼馴染の気持ちはどこに向いてんだろう。俺か宿儺か、あるいは全然関係ない第三者か。それは分からない。ただ、側に居て欲しいと願う。あと少しでいいから。



「ただいま〜」

バスケ部の練習試合に助っ人で参加して遅くなった日、玄関のカギは開いていた。当然宿儺が居るということになる。が、玄関には、もう一つ女物のローファーが並んでいた。それは見慣れた光景で、暗になまえが居ることを示唆していた。また二人でゲームでもしているんだろうとリビングの扉を開ける。リビングの扉を開いて、目の前に広がる風景は想像と同じもので、なぜかホッとしてしまった。


「悠仁おかえり〜」
「なまえまた来てたのな」
「うん、さっきまで宿儺に課題やらせてたよ」
「ありがとな」
「悠仁は?遅かったね」
「今日はバスケ部の助っ人!」
「試合?勝った?」
「勝ったよ。当然」


ペタペタとなまえ専用のスリッパを鳴らして、俺の方へ駆け寄ってくるなまえ。宿儺がやってるゲームはソロ専用だから暇だったんだろう。高校生になっても俺と宿儺への距離感がバグってるなまえは、すぐに俺に抱き着こうとしてくる。片手でなまえの額を押さえてそれを阻止して、反対の手でなまえの頭を撫でた。昔から、宿儺に関わっていることも相まって、なまえには友人が少ない。そのせいか、年齢より少し幼いのはしょうがない。にしても、こちらは思春期男子。好きな子に抱き着かれたらたまったもんじゃない。



「悠仁、夜ご飯なに?」
「ん〜大根の煮物と豆ごはんとみそ汁、あとは〜なんか肉?」
「おいしそ〜」
「なまえも食ってくだろ?」
「うん!」


成長期男子が二人なのに和食中心になってしまうのは、俺たちを育ててくれた爺ちゃんの影響だろう。今更洋食メインで作れって言われても無理ってなる。醤油と味噌がない生活は無理。


「なまえは手伝うなよ」
「宿儺!ゲーム終わった?」
「終わっとらん、休憩だ」
「なまえが手伝ってくれたら俺は助かんのにな〜」
「ならん、お前が一人で作れ」


素直じゃない宿儺が、宿儺なりの精いっぱいでなまえを引き留めようとしている。普段は別に誰が作ったって一緒っていってるくせにな。可愛げのない弟と「なんで私は手伝っちゃいけないの?」ときょとんとしているなまえ。

二人とも確認したわけじゃないのにお互いにお互いの気持ちを知っていて、それを知らないのはなまえだけ。暗黙の了解の不可侵領域。それを破るのは、俺か宿儺かなまえか。いずれは崩れてしまうバランスのギリギリのところを保っている。これが、今の俺たちの日常。
prev | list | next