「これ、虎杖くんに渡してほしいんだけど」

数人の女子に人気のない校舎裏に呼び出されて、何かと思ったら紙袋を突き付けられた。中身はなにか知らないけど、虎杖くんってだけじゃ悠仁が宿儺か分からないし、二人とも私がこうして誰かの荷物の運搬役をすることを嫌がる。つまり、私が怒られることになる。


「えっと、自分で渡した方がいいんじゃないかな?」
「いらないって言われたから頼んでるの」
「それなら私が渡しても受け取って貰えないと思うんだけど」
「やってみないと分からないじゃない」


ほんの少しの会話で相手は宿儺であることはわかった。悠仁なら「さんきゅ」って簡単に受け取ると思ったから。いらないって言うのは宿儺しかありえない。それなら私が渡したところで、機嫌は悪くなるし返してこいって言われるだろう。つまり、私が怒られることになる。


「もう少し宿儺と仲良くなってから渡してみたら…?」
「なまえさんが渡したくないだけなんじゃない?虎杖くんのこと取られる〜とか思ってたりして」
「そんなことは思ってないけど…」


私は渡したくないわけじゃなくて、怒られたくないだけなんだけどなぁ、と繰り返される堂々巡りがちょっとめんどくさくなってきた。その時、どこからか現れた手が女子が持っていた紙袋を掴んだ。


「悠仁」
「通りがかったらなまえ見えたからさ」
「虎杖くん、私たちなまえさんにお願いしてただけなの」
「うん、聞いてた。でも宿儺は受け取んないだろうし、俺が貰っていい?」


キラキラの笑顔を悠仁は女子たちに向ける。それでも、女子たちは「でも、」と言葉を濁した。ここが着地点だと私は思うのになぁ。


「これって中身なに?」と悠仁が紙袋の外から匂いを嗅いだ。まるで犬みたいに。和む、癒される、可愛いの三連コンボ。それには女子たちも同意見だったようで、素直に「お菓子と手紙」と答えた。それに対して腕を組んで少し考えた様子を見せた悠仁は、「手紙は受け取って貰えるまで本人に渡す。お菓子は俺が受け取って、家で宿儺と食う。どう?」と告げた。

悠仁は別に「争いごとは好まない主義」だったり、「平和主義」だったりするわけじゃない。普通に怒ったりするし、不条理なことのためには手を出すこともある。ただ、暴力的な宿儺と一緒に育ってきただけあって、対処の仕方もそれなりにうまい。私は下手だから、見習いたいくらい。

納得したらしい女子たちは「これ、よろしくおねがいします」とすっかりしおらしくなって、悠仁に紙袋を差し出した。「おう!」と歯を見せて笑い、紙袋を受け取る悠仁。私の数分間の苦労はなんだったんだろうと思えるくらい、悠仁が現れてからの展開は早かった。

女子たちが悠仁と私を残して立ち去ったあと、悠仁に問いかけた。「本当に宿儺と食べるの?」と。すると悠仁は「宿儺となまえと俺で食べよ?宿儺は食べるか知らんけど」とまた笑顔を見せた。悠仁だけは敵に回したくない。そう思った瞬間だった。