なまえの自分の家に帰りたがらない。
なまえの両親はなまえに関心がない。なまえが中学に上がった頃からなまえの家は朝も昼も夜もなまえしかいないことが多くなった。それを見かねて爺ちゃんが「飯は家で食えばいい」となまえを家に招き、爺ちゃんが居なくなった今もそれは続いている。だから、俺も宿儺も家に帰りたくないなら帰らなくていいと思ってるし、なまえの居場所は俺たちが作ればいいと思ってる。なまえもきっと同じ気持ちなんじゃないかな。



「悠仁、そろそろ帰るね」
「送ってくよ。ちょっと待っててくんない?」
「大丈夫だよ、隣だし」
「わかった、おやすみ」
「うん、また明日ね」


そんな会話をしてから10分。なまえはまだ俺の家に居た。ようやく家事を終えて、「どうしたん?」と声を掛ければ「家に帰っても一人だから、」と寂しそうな顔をする。泊まっていく?と言ってやりたかった。けど、早寝な宿儺はもうとっくに自室に籠り、夢の中。なまえを泊めるとしたら、俺の部屋になる。それって抜け駆けなんじゃねぇの?って気後れしてしまう。


「こんな遅い時間まで迷惑だよね」
「や、それはない」
「悠仁は優しいね」
「いい人のフリしてるだけだって」
「そんなことない。悠仁はいいひとだよ」


なまえが力なく笑う。このままなまえを一人家に帰したら、きっとなまえは冷たい家で一人寂しく眠るんだろう。俺はいい人なんかじゃない。どろどろの感情抱えた、バカな一人の男。なまえが傷つくくらいなら、自分のちっぽけなプライドなんかどうだっていいだろ、そう思えてきた。


「今日、泊ってけば?」
「いいの?」
「布団ないから俺のベッドだけどいい?」
「一緒に寝ていいの?嬉しい」


さっきまで寂しそうだったなまえの表情が、俺の一言で一変する。本当は、俺のベッドになまえを寝かせて、俺は床で寝ようとしてたのに。どこまでいっても、俺も宿儺もなまえには甘い。


「じゃあ着替えてくる!」
「俺の服でいい?貸すよ」
「隣だしちゃちゃっと行ってくるよ〜」
「だーめ。今日は離れたくない」


そう言って、なまえを腕の中に閉じ込めた。自分より低い体温のなまえが腕の中で俺に寄り掛かって目を瞑る。今日は少しだけ素直になって、なまえをたくさん甘やかして俺も甘やかして貰おう。大好きななまえ。早く俺だけのものになって。