夏のかけら


「楽しみだなぁ、プール」
「そうだね。でも、本当に一緒に行くの僕でいいの?」
「憂太がいいんだよ〜。それとも憂太はわたしと二人じゃいや?」
「い、嫌とかそういうのあるわけないじゃないか」


呪術師に休みはない。
けれど、それでもなんとかもぎ取った夏休みは、ずっと前から決めていた。憂太と二人でプールに行くって。だから、新しい水着も浮き輪も買ったし、空いてる時間に脱毛まで行った。だから、今更行かないなんて言われたら困る。わたしの夏の楽しみ、これしかないんだし。

今日は明日遊びに行くから夏休みの課題をやっつけてしまおうとわたしの部屋に憂太を招いた。憂太の部屋は、不在のことが多いから物が少ない。だから、わたしの部屋になったのは必然。壁に掛けた明日着ていくワンピースを見て、憂太は、「あの服かわいいね」と顔を傾けてわたしを見た。


「ほんと?ほんとにかわいい??」
「うん、かわいいよ。なまえちゃんによく似合うと思う」
「ふふ、うれしい」


ワンピースももちろん憂太とのお出かけのために買ったから、こうして憂太に褒められるのが一番嬉しい。早く彼女にしてくれないかなぁ。こんなにアピールしてるのに、どうして好きが伝わらないんだろう。


「あ〜〜早く彼女になりたい!」
「なまえちゃん…?」
「なんでもない」
「なまえちゃんやっぱり好きな人いるんだね」
「……いるよ。すっごい近くに」
「そうなんだ」


うっかり口から零れ落ちてしまった本音に反応してくれた憂太から、会話が弾む。うっかり「わたしの好きな人は憂太だよ」って言ってしまいそうになった。告白はしたい、彼女にもなりたい。でも、フラれたいわけじゃない。今、わたしが憂太に告白したところで、フラれるのは目に見えている。だから。だから。少しずつ距離を縮めているところなんだけど、どーーにもまどろっこしい。


「なまえちゃん!」
「は、はい」
「やっぱり明日のプールやめない?」
「え、なんで??」
「なまえちゃんの水着姿も可愛いワンピース姿も…ひとりじめしたい」
「憂太〜〜!」


そんなガラじゃないのに、真っ赤になって言葉を口にした憂太に感極まってしまって、思わず抱き着いてしまった。もう計画とか、そんなんどうでもよくなってしまった。

好きが溢れだした私が憂太に「好き」を伝えて、照れた憂太が「僕も」と言って、わたしたちが恋人同士になるまで数分。プールを諦めるまで数十分。大切なのは一緒に居ることだって気付くまであと、30分。