メインディッシュは寮に帰ってから


「ちょっと悟、補助監督さんすぐ戻ってくるって言ってた」
「戻ってきたら見せつければいいだろ」
「そういうわけにはいかな…んン」


任務が終わって帰宅するために乗り込んだ移動車の中。私たちについてきてくれた補助監督は、車の外で報告の電話を掛けている。今回の任務は少しややこしい呪霊が相手だったので、報告には少し時間がかかりそうだ。それをいいことに、悟は私の身体を自分の脚の上に乗せた。疲れていたこともあって、私も甘えるように悟の首に腕を回して抱き着いた。すぐに腰に手が回されて、唇が近づいてくる。拒否のために、右手で口を覆う。けれど、その手は悟の手に絡めとられ、あっという間に唇と唇がくっついた。

下唇を吸われ、上唇を吸われ、唇と唇が重なる。「口あけて」と言われ、無駄な抵抗と分かっていても唇をきゅっと結んだ。それが気に入らなかったのか、繋いでいた手を口元に持っていき、悟は指先を舐める。最初は舌で形どるように、次に口に含まれ咥内で飴を舐めるように舐めまわされた。


「悟、もうおわり…」
「やだ」
「ね、やだじゃなくて」
「嫌なもんは嫌だっつーの」

くすぐったくてあったかくて、気持ちいい。外から見られるかもしれないという羞恥心もあって、心臓がうるさいくらい音を立てる。キスをするために外されたサングラスをつけていない悟の瞳が、私を射抜く。私はこの瞳に弱い。今度は、私から「ちゅーは口がいい」と告げた。


「やだはどうなったんだよ」
「煽ったの悟でしょ?」
「俺が悪いわけ?」
「同罪だよ」


ちゅ、と唇を重ねて、今度は薄く唇を開いた。なのに、今度の悟は角度を変えて唇を重ねるばかり。じれったくなって、私から舌を口から出して悟を誘った。わかってるよ、と言わんばかりに舌先を吸われ、私の舌と悟の舌が重なった。自分のものではない体温を感じながら、悟のザラついた舌が、唇を舐め、咥内に入り込む。歯列をなぞられ、舌の付け根を悟の舌で刺激される。少し苦しくなって引いてしまった身体を、背中に当てられた悟の手が押し戻す。動けないように抱き留められ、呼吸をするのもやっとの私に追い打ちを掛けるように背中に添えられた悟の手のひらが私の身体を撫でた。


「…ッ、ふ、…ふ、っン」
「…なまえ」
「ぁ、さ、とる…」


身体が蕩けそうな甘いキスをされて、もっともっとと求めてしまう。ダメなのに、これ以上はここじゃダメなのに。いつの間にか悟の首に回していた手で、悟の服を掴んでいた。そのまま、悟の服のボタンに手を掛けたその時、トントン、と窓を叩く音がして我に返る。そこに居たのは、こちらを見ないように配慮を施してくれた補助監督の姿だった。


「…空気読めよ」
「私たちがね」


ふふ、と笑いあって悟の脚の上から降りると、補助監督も運転席に乗り込む。ごしごしと口の周りについた唾液を拭っていると、耳元で悟が「寮に戻ったらなまえの部屋行くから」と囁いた。
高専までの道すがら、私たちは外の景色をずっと眺めていた。手はずっと握ったままで。