わたしが両面宿儺の存在を知ったのは7歳の時だった。

わたしは、所謂御三家と呼ばれる由緒ある家柄の五条家の分家に生まれた。集まりと言って、本家に行くことも少なからずあり、かといってその集まりは子供が楽しめるものでもなかったものだから本家の広い敷地を探索するのはいつものことだった。両面宿儺に関する本は、本家の奥の木々が生い茂る蔵のなかにあった。幼いわたしに昔の人が書いた文字が全て読めるわけがなく、筆で描かれた絵や特徴とその存在を知っただけだった。両面宿儺の文字が読めなかったわたしはその「呪いの王」の姿に魅了されてしまったのだ。

そしてわたしは成長と共に、両面宿儺の文献を読み漁った。結論、両面宿儺に一つの感情を覚えることとなる。それをわたしは「憧れ」と自分の中に位置づけた。

そもそもの話をすると、わたしが生まれる10数年前、五条家には「五条悟」が生まれた。彼は天才であり、六眼の目を持つ最強だった。そして、わたしはその五条悟と外見が似ている状態で生まれた。簡単に言えば、同じ目の色、同じ髪の色。性別こそ違ったが、親戚はわたしが「五条悟」と似たようなものを持っているのではと期待した。しかし、現実はそう甘くはない。わたしは六眼ではなかったし、彼のような圧倒的な呪力を持ち合わせてはいなかったからだ。わたしが、本家に赴いても探索と称して人気のない場所を目指していたのはそんな理由もあった。

だから、わたしは両面宿儺の強さに憧れた。

くだらないと思われるかもしれないが、勝手に期待して勝手に落胆した大人たちを見返したかった。親類から「見た目は似てるのにね」と言われて、申し訳なさそうに俯くばかりの両親に堂々と誇ってもらえる自分になりたかった。


両面宿儺の器が現れた。

そんなニュースが届いたのは、わたしが呪術高専へ入学してしばらく経った6月のことだった。宿儺の指を飲み込み、その体に宿儺を受肉した人物が現れたのだ。しかも自我を保てているという。それはわたしにとって朗報だった。会いたい、会いたい。思いは募るばかりだった。


「ソイツ、転校してくるから」

宿儺の受肉の際に同席していた、恵に話を聞きに行けばそう告げられた。つまり、説明めんどくさいから本人に聞けということらしい。全然可愛くない恵に、「紹介くらいはしてくれるよね?」と問えば、「五条先生がしてくれんじゃねぇの」と不快な名前を出された。

「いい、自分から会いに行く」
「お前のその五条先生嫌いなんとかなんねぇの」
「ならないね、生まれた時から嫌いだから」

はぁ、と恵は深く息を吐いた。そう、わたしが五条悟に持つ感情は憎しみや妬みといった圧倒的な「負」。恵は入学してからの数か月でそれを嫌というほど知っていた。なので、このやり取りも実は初めてではない。今回も恵が「まぁ、五条先生はクソだけどさ」とわたしの気持ちを汲んでくれた。


「タイミングあったらだからな」
「ありがとう、恵好き」
「はいはい」

宿儺のことに関して他人に呆れられるのはもう慣れっこだった。わたしの頭の中を支配しているのは宿儺だけ。それは変わらないのだからもう仕方がない。
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