Episode.6


ずかずかと私の部屋に入り込んだたかちゃんは、「忘れ物」を探す気配は見せずにドカッと私の部屋のソファに座り込んだ。傍らには、持ってきていた大きなカバンが置かれていた。



「なまえ」
「は、はい」
「座って」
「あ、お茶とか」
「いいから、座って」

いつになく高圧的な態度なたかちゃんに珍しいなと違和感を感じながらもテーブルを挟んでソファの反対側に正座した。そう言えばたかちゃんは、東京卍会の二番隊隊長を務めてた人だった。改めて、そう感じさせられた出来事だった。


「さっきドラケンに連絡貰った」
「は?」
「で、オレのなまえへの気持ちの証明しに来たんだけど。いい?」
「……どうぞ」


いい?なんて私に主導権を握らせるような口ぶりのくせに、たかちゃんの表情はこれから殴り込みにいくんじゃないか?ってくらい鋭くて、拒否権は私にはなかった。ごくりと唾を飲み込めば、大きなカバンの中からたかちゃんが一枚の紙を取り出した。


「俺の名前は書いた」

そう言って、テーブルの上に拡げられた紙は婚姻届。婚姻届なんて初めて見るものだし、たかちゃんの両親の名前も本籍も書かれているその紙は、保証人の欄まで埋まっていて、あとは私が必要事項を書いたらきっと多分、役所に提出できるもの。保証人欄に書かれた名前は、ドラケンくんと千冬。この短時間で?って思っている私にたかちゃんは、「本当は場地に書いて欲しかったんだけどな」と言ってくるから、私はまた泣きそうになってしまった。


「で、あと、これ、見て」

そう言って、再びカバンの中に手を突っ込んだたかちゃんが、カバンの中から大量のスケッチブックを取り出した。テーブルの上に重ねられたスケッチブックは多分数十冊はある。その上にバン、と手を置いたたかちゃんは、「これ全部なまえのために考えた服」と言った。


「…見てもいい?」
「どうぞ。表紙に描いてた時の年代あるから」


気恥ずかしい気持ちを抱えながらもスケッチブックを捲る。丁寧に描かれたデザイン画。服も、ぬいぐるみも、小物も、カバンに靴まであった。大きなバツが書かれたページも、大きな丸が書かれたページもあった。その中に、私の手元に未だ残っている服もあった。


「オレの愛、伝わった?」

いつの間にか瞬きの度に零れ落ちた涙が、スケッチブックに染みを作る。口元を片手で抑えて、反対の手で零れ落ちる涙を拭うけどそんなのもう手遅れ。一冊目も二冊目も三冊目も全部、たかちゃんの私への愛で溢れていた。「なまえの今の髪型ならコレ」って文字があり、「なまえは毛糸が苦手だから素材は綿」って文字もあり、これで愛を感じられないなら、どうやったら私は愛を認識できるのだろうと思えるほど。


「なまえ、最後にこれだけ見て」
「…ッん、うん」
「なまえのウエディングドレス姿見たくて、一冊使っちゃったの、オレ」
「たかちゃん……」
「ここ笑うとこだからな?笑えよ、なまえ」


たかちゃんの優しい指先が私の涙を拭う。
もうここまでされたら私が不安になる要素なんて何もないじゃない。ずるいよ、と言いかけて、それは違うと「ありがとう」と言い直した。


「なまえ、もう一回確認させて。オレの彼女になってくれる?」
「…っうん」



窓際で昔作ったドリームキャッチャーが揺れていた。
悪夢も不安も全て掬い上げて幸せに変えてくれる。私にとって、たかちゃんはドリームキャッチャー。これからは幸せな夢を一緒に叶えていこうね。