Episode.5


ドラケンくんと別れて軽く買い物を済ませ家に帰った。
家に帰ったら全部夢で昨日の出来事なんてなくなってたりしないかな、と思って玄関のドアを開けたけど、夢ではなかったかのようにリビングのテーブルの上にはコンドームの入っていた袋が置かれていた。

乱雑に散らばったゴミを分別してゴミに捨て、お気に入りだったベッドカバーもゴミ袋に放り投げた。ベッドカバーを見ると、どうしても思い出してしまうから。何度も何度も、私の名前を呼んで「好き」と言ってくれた甘い声と、愛しいを伝えるために私に触れる優しい唇を。


「……たかちゃん」

走馬灯のようにたかちゃんとの思い出が頭の中に蘇ってしまって、鼻の奥がツンとした。いつも優しかったたかちゃん、いつもそばに居てくれたたかちゃん。そんなたかちゃんを私は傷つけた。私が油断したばっかりにたかちゃんは傷つかなくていいことで、傷ついてしまった。


涙が零れ落ちそうになって、咄嗟に上を見た。その時、インターホンが鳴った。モニターで確認したら、相手はたかちゃんで。無視したかったけど、何度も何度もインターホンを鳴らされて、スマホにもずっと着信が入っていた。そんなたかちゃんを見るのは初めてだったから、根負けして、私は「はい」とスマホの通話ボタンを押した。


「なまえ、悪い。忘れ物した」
「あ、え、あ、うん」
「部屋入れてくんない?」
「わ、わかった」


まだ全然消化できていないのに、なんで今なんだろう。忘れ物ってなんなんだろう。頭の中をハテナが行き交う。けれど、お兄ちゃんもバカだったように私もそれなりにバカだったから、そう簡単に答えなんて出なかった。


玄関のドアを開けて、その向こうに居たたかちゃんは笑顔だった。

内心ホッとした。今朝の傷ついたような顔が頭の中に残っていたからだった。
大丈夫、大丈夫。たかちゃんとはきっとこれまで通りで居られる。そう思っていた私が間違っていたと気づくまで、あと数秒。


たかちゃんは、どこまでいってもたかちゃんで。
私の大好きだったたかちゃんで。

きっと、これからも、ずっとたかちゃんはたかちゃんなんだろう。
不変を望んだ私を変えるのも、不安を作り出すのも、すべてはたかちゃんなのだ。