プロローグ


これは5年付き合った彼女に「千冬ってセックス雑だよね」と言われたオレの戦いの記録である。


「千冬ってセックス雑だよね」と言われたのは、1週間ぶりに会った彼女とのセックスが終わってベッドでまったりいちゃついている時だった。なまえからその言葉を告げられた瞬間、何を言われたのか一瞬分からなかった。それも当然だ。付き合ってから3か月で初めてセックスをして、それから何度も身体を重ねている。そして、初めてから今日までの間、なまえからはそんな言葉を言われたことなどない。それどころかオレとのセックスに不満な素振りすら微塵も感じられなかったからだ。

「え?……何言ってんの?」

思わずオレはそう言ってしまった。自分でも驚くくらい間抜けな声が出て、恥ずかしくなったが、それ以上に突然不満をぶちまけてきた彼女の意図が全く読めず困惑していたのだ。しかし彼女はそんなことは全く気にしていないようで、「だからさぁ」と続けた。


「気持ちいいは気持ちいいんだけど、もっとね、こう」
「……は?」

彼女が言いたいことはなんとなく分かっていたが、聞かずにはいられなかった。まさかこんなことを言われるとは思わなかったし、少しマンネリかなと思うことはあってもなまえもなまえなりに楽しんでいると思っていたからだ。
確かに自分は淡白なのかもしれない。けれど、それでも彼女に対しては常に最大限優しくしてきたつもりだし、なのになぜ急に不満が出てきたのだろうか。


「…もしかしてなまえ浮気……?」
「殴るよ?」
「悪い。なら今更なんで?」
「この前さ、一虎くんと話してて、」

そう言ってなまえはオレの腕の中で話を続ける。
オレの仕事が終わらない間、一虎くんがオレを待っているなまえの話し相手をしてくれていたらしい。それ自体はなんとなく覚えている。そういえば、去り際に一虎くんに「千冬、がんばれよ」と含みを持たせた言葉を掛けられたような気がする。あの時の彼の顔を思い出しながら、オレは黙って続きを聞いた。

どうやら一虎くんがなまえに「千冬ってセックスうまいの?」とデリカシーの欠片もない問いかけをしたらしい。それに対して、なまえも素直に「うまいとか下手とかわかんない」と答えて、「それならAVとか見てみれば?」と一虎くんはいらないアドバイスをしたそうだ。そして、なまえは言われるがままにAVを見て、オレとのセックスと比較してしまったらしい。


「で、AV見てみたら千冬と全然違った!」

語尾荒くなまえはオレにそう告げた。そりゃそうだろ。AV男優と比べんなよ。こっちは素人だぞ?と思いつつもそれを言うわけにもいかない。と、そこで、これはもしかしたらチャンスなのかもしれないということに気づいた。今までなまえが嫌がるかもしれないと思って遠慮していたプレイをできるのではないか?コスプレとか、拘束とか。そういうマニアックなものを。


「なんのAV見たんだよ?」
「なんか女子高生もののヤツ!制服着てる女の子がいっぱい出てきて可愛かったよー」
「へぇ……」

色々間違った感想をなまえはオレに告げてくるけど、なまえが見たのがヤバいジャンルのものじゃないことにとりあえずホッとした。「それなら」と目の前で楽しそうにAVの内容について語っているなまえの耳元でそっと囁いた。「試すか?」と。あ、とかえ、とか言ったなまえはしばらくして顔を真っ赤にしながら小さく頷いた。心の中でガッツポーズをしながら、「とりあえず今日は雑なセックスもう一回しようぜ?」となまえの耳を舐めながらもう一度彼女をベッドに押し倒した。