エピローグ


やりすぎまではいかないまでも帰宅後、夕飯より先になまえを頂いてしまったので、遅めの夕飯を済ませたオレ達は時間がもったいないと一緒に風呂に入ることにした。なまえが先に入って、オレが洗い物を済ませて風呂に向かうとタイミングよく「千冬〜いいよ〜」と呼ばれた。服を脱いで、浴室に入りシャワーを浴びる。先に湯船につかっていたなまえが、「一緒にお風呂入るの久しぶりだね」と嬉しそうに笑う声が聞こえて来た。そんななまえの声を聞きながら、手っ取り早く髪や身体を洗った。


「なまえ、詰めて」
「はーい」


なまえを抱きしめる形で二人湯船につかる。一人分の体積が増えて溢れ出たお湯が、音を立てて浴室の床に流れていった。ふぅ、と息を吐いて、なまえの肩に頭を預ける。ホッとして、幸せだなと思った。
しばらく無言のまま二人で温まってから、口を開いたのはやはりなまえだった。


「明日、千冬の誕生日だね」
「うん」
「0時になったらお祝いさせてね」
「……ありがとな」
「あのね、プレゼントなんだけど、」


そう言ってなまえが話し始めたのは、なまえがコスプレエッチをし始めたことの経緯だった。大雑把なところは聞いていたけれど、事の本質を誕生日まで黙っていたことには理由があった。まず第一に、コスプレの衣装は初回の制服以外は、一虎くんと三ツ谷くんからのプレゼントだったそうだ。オレの昔の夢がパイロットだったことをなまえが知っていたことも、サイズがなまえに妙にフィットしていたことも、縫製が丁寧だったことも納得がいった。そして第二に、なまえはオレとのセックスしか知らないのに、オレはそうではないから、自分でオレが満足しているのか我慢しているのではないかと不安になったそうだった。今までのセックスでもオレは十分満足してたし、なまえが好きだから我慢とかは全然ないことを告げると「よかった」となまえはオレのほうを向いてへにゃりと笑った。


「でもノリノリだったよね、千冬」
「んなことねーよ、次は何が待ってるかわかんねーし、なまえが物足りないって思ってんじゃないかってオレも不安だったっての」
「そっか。似たようなこと考えてたんだね、私たち」


あぁ、確かに似た者同士かもしれないなと思う。
お互いの気持ちを確かめ合ったあと、どちらからというわけでもなく唇を合わせた。くっついて離れた唇はまたくっついて離れてを繰り返して、そのうち舌先が触れ合って絡まり合うようになる頃には、すっかり身体の中心には熱が集まっていた。キスの合間に漏れる吐息すらもどかしいほど、お互いに欲情していた。


「なまえ、いい?」
「いいけど、それ聞かれるのちょっと恥ずかしい」
「なんでだよ」
「今から千冬とするんだなぁって思うと、なんかぶわぁってなるから」
「なら次から毎回聞くわ」
「だから、やだって〜」


まだぶつぶつと文句を言っているなまえを風呂場の壁に押しつけて、後ろから抱き締めるように中に入り込んだ。つい一時間前までしていたせいか、なまえの中はまだ柔らかくて熱いままだった。耳元で名前を呼ぶたびに中がきゅっと締まるのを感じながら腰を動かす。壁についた両手の上に自分の手を重ね合わせると、なまえの手はすっぽり隠れてしまった。そのまま少しだけ体重をかけるようにすると、あっけなく膝が崩れて倒れそうになったのを慌てて支えた。

「なまえ大丈夫か?」
「だ、だいじょ、ぶ…だから千冬の好きに動いて?」

こちらを振り向いて涙目になりながらも一生懸命微笑む姿に、愛おしさがこみ上げる。ていうか、その台詞はオレがぶわぁってなるんだけど。そんなことを知らないなまえは、さっきまで膝から崩れそうになっていたにも関わらず腰を揺らしてオレを求めていた。再び、今度はゆっくり動き始めると次第になまえの声が大きくなっていった。声がでかいのは風呂場でヤってるせいもあると思うけど、久しぶりに普通のセックスをしているのも理由のような気がした。最近、ずっとヤるときは服を着ていた気がする。やっぱり肌と肌が触れ合うのが最高に気持ちいいんだって気付いた。なまえの声が大きくなるにつれて、こっちの限界も近づいてくる。さっき一回出したはずなのにすぐイきそうになる自分に呆れつつも、まぁ今日くらいはいいかと思った。明日はオレの誕生日だし。なまえもオレが我慢してるんじゃないかって不安がってたし。


「千冬っ、ちふゆ……ッ」
「はッ、なんだよ」
「ちゃんと、…あぁ、ッ、私で気持ちよく、なれ、てる…?」
「当たり前、だろ……!」

なまえのバカげた問いかけも、オレを思って言ってくれてることが今なら分かる。この女は本当に馬鹿だなと思った。好きなヤツとセックスしてて、オレで気持ちよくなってくれてて。こんなに幸せなことないだろって思うのに、まだ心配してるなんて。
腰の動きを早めていくと、だんだん目の前がチカチカしてきた。逆上せて来たのもあるのかもしれない。けど、それに勝って幸せで気持ちいいからだと思った。なまえの背中に額を押し付けて、奥歯を強く噛み締める。もう少しこのまま繋がっていたいと思ったけれど、それは無理そうだ。頭の中で何かが弾けたような感覚があって、ギリギリで抜き取ったオレ自身から放たれた性癖がなまえの背中を汚していく。

「悪い、汚した」
「ううん、平気だよ」


バスタブの淵に座り込んだなまえの身体についた精液をシャワーを出して流してやる。自分でできると言い張るなまえを無視して髪にもかかったそれを流しているうちに、またムラムラしてきて困った。でもこれ以上したらマジでやばいと思って必死に耐えていると、「今日は千冬の好きにしていいんだよ」となまえが言った。……だからお前は、なんでそういうことを恥ずかしげもなく言えるんだよ。逆にこっちが照れてしまったから、なまえにその顔が見られないように抱きしめてうなじにキスを落とした。


結局その後もう一回シてからベッドに戻ってさらに二回ヤった。なまえはもう限界ですと言うようにベッドにぐったりと倒れこんでいた。なまえの寝顔を見ながら、こいつだけはオレが絶対に幸せにしたい。そう思った。力なくベッドに無造作に置かれたなまえの手のひらを取り、もうすぐ来るクリスマスはなまえに指輪をプレゼントしよう。そう誓ってなまえの薬指にキスをした。