今日も明日も明後日も


23:30
轟音を立てるドライヤーをソファに座るなまえの濡れた髪に当てる。長い髪が風に舞って目の前で揺れている。自分が誰かにこんな風に優しくできるなんて思っていなかった。髪が十分乾いたところでドライヤーのスイッチを切って片づけて、呑気にスマホを弄っているなまえの隣に座って凭れ掛かった。


「一虎、ありがとね」
「んー」
「ふふ、今日の一虎なんだかかわいい」

男女逆なんじゃね?と思うけど、甘える俺の頭をなまえの手のひらが往復する。さっきまで手にしていたスマホはソファの横に置きざりにして。
俺の青春はあってないようなもので、出所して、千冬に雇ってもらって、初めて普通の暮らしができた。そんな時出会ったのがなまえだった。見た目は華奢ななまえは、実家で犬を飼っていると言って度々店を訪れた。俺の首筋に刻まれた若気の至りを見ても何も言わなかった。あーいいなって思って、でも自分のしてきたことを考えたら告白すら出来なかった俺になまえから告白してくれて現在に至る。

どっちがいい?と聞かれるのが苦手な俺にはっきりと「こうしたい」「こっちがいい」となまえは言ってくれた。たまにフラッシュバックする俺を優しく抱きしめて「大丈夫」と言ってくれた。その度に俺の中のなまえに対しての大好きが振り積もっていく。


「なまえ〜」
「なーに?」
「俺すっげー好きだわ」
「ふふ、なにが?」
「なまえ以外に何があんだよ」


なまえの両頬を両手で抑える。唇を突き出す変顔になってしまったなまえはそれでもケラケラと笑う。好き。好きだ。大好きだ。大事な人に歪んだ愛情表現しかできなかった俺だけど、なまえに会って、なまえを好きになって、正しいかどうかは分からないけど、昔よりまともに愛情表現が出来るようになったような気がする。


「目、瞑れよ」
「一虎もね」
「じゃあ、せーので目瞑ろうぜ」
「ふふ、いいよ」


提案したのは俺で、了承したのはなまえ。二人で同時に「せーの」って言葉を口にしたのに、どちらも目は潰らなかった。

俺が「いいよって言っただろ」って言ったら
なまえは「一虎も瞑ってなかったじゃん」と言った。

俺が「うるせーバカ」と言ったら
なまえは「バカはどっちよ」と言って笑った。

俺が「もういいよ」って言ってなまえのおでこに自分のおでこを重ねたら、
「なにがいいの?」と言いながらなまえが目を瞑った。


なまえの両頬に置いていた手のひらの力を緩めて、唇を重ねる。触れて離れたところでなまえがぱっちりと目を開く。「誕生日おめでとう」と言って笑って、俺の手のひらに自分の手のひらを重ねた。多分、俺、今まで生きてきて一番生まれてきてよかったと思ってる。


「大好きだよ、なまえ。今もこれからもずっと」

そう言ってもう一度唇を重ねた。来年も再来年も10年後も20年後もおじいちゃんになっても死ぬ時もずっとなまえが大好きだ。そう思いながらソファの上になまえを押し倒した。