カンパニュラの花の音

「あ、こんな所にあったんだ」

年末の大掃除を終えた12月31日。大掃除のせいで、大事な書類が一つどこかに紛れてしまった。それを探すために悟と二人、片づけた場所を必死に探す。探し物の書類の代わりに見つかったのが、今年の夏に一緒にやろうねって買った花火だった。


「やる?」
「やるでしょ」
「だよね〜」
「まだ使えんのかな?」
「試してみなきゃわかんないよ」


そうと決まったら行動は早かった。夜を待たずに悟と二人マンションの屋上へ上る。部屋にあった貰い物のアロマキャンドルと、いつだったか悟の教え子と一緒にBBQした時に買ったユーティリティライターを持って。
屋上は風が吹き荒れていて、ただでさえ冷たい指先を更に冷たくした。そういえば、10年に一度の寒波が来るとかなんとか朝の情報番組で言ってたような気がする。

結果、花火を試すどころか、キャンドルに火すら灯せず撃沈。というか、キャンドルの周りを私が手で覆ってやっと灯すことが出来たけど、手を動かしてしまえばすぐに火は消えてしまった。どっちにしろ結果は同じ。撃沈。だけどお互いそれは想定の範囲内で「だろうね」「まぁそうなるね」と声を出して笑いあってしまった。


「やっぱり冬に花火は無謀だったかー」
「残念」
「あーあ、花火したかったなぁ」
「来年の夏やろうよ、また二人で」
「…うん」

花火が出来ないことは寂しかったけれど、悟が私と来年の夏も一緒にいてくれる気持ちがあるって言ってくれてるみたいで嬉しくなった。ふと屋上の高いフェンスに寄りかかった悟が空を見上げて「やっぱ冬だな」と呟いた。その言葉の理由が分からない私は、悟の隣に立って「なにが?」と背の高い悟にもたれ掛かる。

「見てみ?すげぇ星きれい」
「悟がロマンチックなこと言ってる」
「僕だって言うよ、そのくらい」
「そうだっけ?」
「あれがシリウス、あっちがペテルギウス、で、あのプロキオンと合わせて冬の大三角形」
「すご!じゃああの赤い星は?」
「おうし座のアルデバラン」
「なんでそんなに詳しいの?」
「死んだ人間が星になるって信じてた時があって調べた」


絶対嘘でしかない理由を口にする悟は少し憂いを帯びた表情をしていた。こういう顔するときは、実家に居た頃を思い出している時だ。だから、私はこれ以上踏み込めない。


「ねぇ悟他にもロマンチックなこと言ってよ」
「えーロマンチストじゃないのんだけど?」
「あはは、さっきたまには言うって言ったのに?」
「さっきので今日のロマンチスト力は使い切りました」

そう言ってサングラスを外す悟は、「さみぃな」と言って私を抱きしめる。さっさと部屋に戻ればいいのにね。二人で綺麗な星が見ていたくて、「流れ星流れないかな」なんて言いながら夜空を眺めた。しばらくして、「そろそろ戻るか」と悟が私の手を握った。二人の吐く白い息が近づいていって、そっと唇が触れる。

ねぇ、悟。
今日のロマンチスト力使い切ったって言ってたけど、星空の下でキスするのも十分ロマンチックだと思うよ?私は。