幾星霜の物語


お料理教室


 賢者としてこの世界に呼ばれて数日。私はある問題に直面していた。
 それは、好きな食べ物が食べられないというものだ。
 ここには料理人のネロがいるし、前任の賢者様が元の世界の食べものの類似品を探してくれていたことと料理本を書いていてくれたおかげで同じような食事を楽しむ事ができている。
 だがしかし、私は料理が一切できない。
 料理本にない料理が食べたくなってネロに頼もうにも私は料理ができないから説明することもできない。「得意料理は卵かけごはんです」って言ったら、「それは料理とは言わねぇ」とネロに言われた。
 ネロからすれば料理じゃないのかもしれないけど、卵かけごはんは私の努力の結晶なんだよ。
 っていうことを熱弁したら呆れられて、厨房を出禁にされた。
 まだ何もしてないのに。
 最初の頃はそれでも良かったけど、今では元の世界の料理に興味を示す魔法使いが増えた。
 のらりくらりかわしてきたけれど、もうそれも通用しないような気がしてきた。
 というわけで、
「お願いします!」
「そうは言ってもなぁ」
 ネロに料理を教えてもらうために頭を下げている。
 ネロに私の料理の腕前を見せたわけでもないのに、なぜかネロは私が料理をすることを躊躇っている。理由はわからない。
「ゆで卵! ゆで卵の作り方でいいので教えてください」
「……そこからかよ……」
「ゆで卵をなめないでください! 正確な時間でゆでないと理想とするものが出来上がらないし、何度挑戦してもゆで卵にならないんですよ」
「卵料理は駄目だ」
「どうしてですか?」
「賢者さんが卵をレンジに入れて温めたってきいたんだよ」
「だって、知らなかったんだもん。経験は大事ですよ!」
「そんな命を張る経験は、ごめんだね」
 ネロは頑なに教えてくれない

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