英志「そういえばベルは……?おーい、ベルー!」
ベルの無事が心配になり、名前を呼びながらベルを捜索する。

ベル「・・・・・英志さんの声だ・・ここにいるよ・・・・!」
がれきの隅に隠れていたのかひょこっと顔を出す
怪我をしたわけではないが自身の役立たなさ・・・・というより何もできない無情感が強い劣等感として
また、恐怖心として心が蝕まれているのか
その表情はとてもじゃないが元気いっぱい、というようなものでは無かった

英志「ベル!」
英志はダッシュで駆け寄り、ベルを抱きしめた。
英志「無事でよかったぁ……怪我とかはない?」
相当心配だったのか、自分の方がボロボロなはずなのに、ベルに怪我がないか聞く。
絆創膏が剥がれて顔の傷が顕になっていて、ちょっと怖がられそうな顔をしているがそれには気が回っていない模様

ベル「私は大丈夫…なにもないから・・・・なにもできなかったから・・・・・」
いきなりの事に驚くも相手のケガを見て猶更気が落ち込むと同時に、役に立てなかったことで捨てられる恐怖心が本能的に呼び出されたのかもしれない
痛い程こちらも抱きしめるとその手は震えていた

英志「無事ならそれでいい。本当に良かった……もう大丈夫だから、安心してくれ」
抱き締めたままベルの頭を撫でる。
捨てるなんて気は微塵もないということは彼女に伝わっただろうか。

ベル「ん・・・・ごめんね、うん・・・・・うん・・・・」
ひとしきりそうしていると落ち着いたのか力を緩める。
そうして離れると痛々し気な傷痕を心配そうに眺めると

「なおす・・・?大丈夫?」と声をかける

英志「……ん?あぁ、顔のこれ?これはこの世界に来るずっと前からあるんだ。普段は隠してるんだけど、運悪くというか、さっき攻撃が掠って剥がれちゃって。……まぁ、身体の方もそこまで重傷ってわけじゃないし、とりあえずは事態の収拾が……っ!?」
緊張が緩んだからなのか、自分の腰にガラス片が刺さってることに気がついた。急な痛みに英志は顔をしかめる。先程の寒蝉との戦闘中、吹っ飛ばされて地面を転がることが何度かあった。英志のパーカーは一応防弾防刃機能が備わっているものの、地面を転がる時に少し捲れた所に刺さったのだろう。
英志「ちょ、ちょっとゴメンよ……」
ベルから体を離し、自分の腰に手を回す。そのガラス片を摘むと、2度ほど深呼吸して引き抜いた。
英志「────っ!!」
悲鳴を押さえ込んで、言葉にならない呻き声のようなものが漏れる。刺さった弾丸や刃物、ガラスなどを抜くのは今まで何度も体験したことだが、それでも痛いものは痛い。
英志「……はぁ……ふぅ……ごめん、この腰の傷、治せる?」
そう言いながら、自分の手元にある赤く染ったガラス片をそこら辺に放り捨て、腰の傷をベルに見せる。そこには、大量というほどではないが血の流れ出る微妙に深そうな傷口が見えるだろう。

ベル「な・・・・・治せるけど・・・・。」
一瞬言葉に詰まる。
何故か治すにあたってとても抵抗感が沸く。
助けたくないというわけじゃないのになぜこれほどまでに躊躇うのか、自分で自分が分からなかった

でも、今はそのためらいを押し返すだけの感情が一つ、名はわからないが確かにあった。
ベル「わ、わかった。・・・・・っ・・!!」
両手をあわせて握ると一面に紫の花が咲き、花弁が散ると英志へ吸い込まれるように消えていく。
その途端傷は段々と癒えていき・・・・・・・・・彼女は気づいていないが
【彼女の記憶が英志へ無意識的に流れ込むのが見えるだろう】
それはどれも被害者と思わしき視点での記憶のビデオで・・・・・
見た貴方はどう思うだろうか

英志「……っ!?」
傷は癒え、痛みは引いたが、今流れ込んできた映像は一体何なのだろう……?
英志「ベルが……誰かを……?」
ふと、小さな声がこぼれてしまう。

ベル「・・・・・どうかした?」
声が聞こえたのか問いかける。
勿論英志が何を見て何を感じたのかベルは知らない。
相手の表情が何かとても不安を想起させる気がする。
本能的に記憶を見られたくなかったから躊躇ったのだろうがそれすらにも気づけないベル

忘れてなんていない。忘れたと思っているだけなのだ
「誰か・・・・?ここには二人しかいないよ」

英志「……あぁいや、なんでもない」
もしかして、と思う所があったが、今ここで話すことじゃない。今は、目の前のことをどうにかする必要がある。それからでも、遅くはないはずだ。
英志「ありがとう。すっかり良くなったよ。すごいね」
腰の傷口があった場所をさすりながら笑顔でそう言って立ち上がる。
英志「多分もう襲撃してきた敵はなんとかなったはずだよ。これから復旧作業になるはず。俺は少し外の様子とかも見てくるから、もうちょっとここで待っててくれる?」

ベル「うんっ・・・・・散らかった所片づけるの手伝って待ってるね」
気のせいだったか、と首を振ると笑顔で答えて見送る事にする。
お礼を言われたのはいつぶりだろうか。そんな事を考えながら屋敷の片づけへ向かう足取りはいつもより軽かった

英志「さてと、アイツの墓に丁度いい場所でも探すとするか……」
英志は屋敷の裏の少し離れた所、何の花かはよく分からないが、花畑になっている場所の近くにいた。
英志「……ここら辺でいいか」
英志は能力で軍用のスコップを取り出して、穴を掘り始めた。
額の汗を拭いながら、人1人が寝転がれそうなサイズの穴を掘っていく。
英志「……よし、出来た……」
穴を掘り終わると、英志は地面にスコップを突き立て、屋敷へ───寒蝉の遺体がある場所へと向かった。

英志「……よっこらせ」
英志は寒蝉の遺体を背負って、人の目に触れないように先程穴を掘った場所へと戻る。
英志「……よいしょ」
英志は寒蝉の遺体を穴の中に仰向けで寝かせると、遺体に向けて両手を合わせたあと、地面に刺していたスコップを引き抜いて、穴を埋め始めた。

チェリー「何をしているのですか?」

穴の中に襲撃者の亡骸を埋める英志を見かけて声をかける。
彼女は墓というものを見たことがない。知識の片隅で知ってはいたが、人をこのように葬ることにすぐに考えは至らなかった。
…とはいえ、圷の亡骸をそのままにしておくのもしのびないとは思っていた

英志「ん?」
声をかけられて、英志はスコップを肩に担ぐようにしてチェリーの方を振り返る。
英志「墓を作ってんだ。昨日の屋敷襲撃で俺と戦った奴の」

チェリー「ああ…お墓、ですか」

そこで墓というものの存在を知識の中から掘り起こし、圷を埋葬するという事に思い至る。

「お墓…って、どのように作ればいいのでしょうか?」

知識としてそこまで深くある訳ではなく、作り方がよく分からない

英志「前の世界で色んな国の墓や弔いを見てきたけど、遺体を焼いたり、土に埋めたり、海に流したり……聞く話だと食う地域もあったとか聞くな。とにかく地域によって色々ある。俺はまぁ……埋めようと思ってな」
そう言いながら、自分が遺体を埋めた場所を見る。
ふと、またチェリーの方に向き直った。
英志「……掘ろうか?穴もう1個」

チェリー「いえ…自分で掘ります。シャベルだけ貸して頂けますか?」

相手に止めを刺したのは自分だ、ならば葬るのも最後まで自分でやるべきだろう。ただ、道具だけは借りたいのでそれだけ頼み出る

英志「わかった。んじゃ、これ使って」
そう言って自分が肩に担いでいたスコップを下ろして、持ち手がチェリーの方を向くようにして差し出した。

チェリー「ありがとうございます」

スコップを受け取り、地面に突き立てる。黙々と穴を掘っていると、相手の事が頭に浮かんだ。名前も分からないが、あの者も自分を見失い、迷っていた。どうにも吹っ切れないもやもやを頭の中で反芻するうち、人一人埋めるには充分な穴が出来上がる。

「…ここに、埋めればいいんですね」

英志「うん。で、埋めたら、お墓のシンボルになる物を置くんだ。前の世界では文字の掘られた石とか、十字架が多かったなぁ。俺はちょっと瓦礫からちょうどいい石を探してくるよ」
そう言って屋敷に戻り、廃棄された瓦礫の中から丁度よさそうな物を見つけて、抱えて戻ってきた。そして遺体の頭上辺りに浅く穴を掘って瓦礫を差し込み、土を隙間に入れて倒れないように固定した。

チェリー「なるほど…」

英志に倣うようにしてそこそこの大きさの瓦礫を見繕い、半分埋めるようにして遺体を埋めた穴の上に立てる。
何かもの足りない…そう思って辺りを見回すと、近くに小さな白い花が咲いているのが見えた。そっとその花を何本か手折ると、仄かに甘い香りがした

英志「…………」
英志は遺体を埋めた場所を踏まないようにしつつ、石の前にしゃがみこんで、腰の鞘からナイフを抜いた。
ガリガリとナイフの先で石を削り『R.I.P-愛する人との約束を守ろうと全力を尽くした者、ここに眠る-』と掘った。
そして、掘り終わってから腰の鞘にナイフを戻し、墓から数歩下がって墓を眺める。

チェリー「…」

摘んだ花を墓に添え、瞑目して手を合わせる。暫く、そのまま動かなかった。英志のように何か文字を彫ろうかとも思ったが何を彫ればいいかよく分からない。結局、何も彫らないことにした。

チェリー「ありがとうございました。お墓のこと、私はよく知らなかったので」

英志に礼を言う。この男も、今回の襲撃者の1人を屠ったのだろう。そこでどんな戦いがありどんな想いをぶつけたのか、聞くのは無粋だろうから聞かない

英志(……来世では幸せになれるといいな)
墓の前で手を合わせて、そんなことを祈る。

前の世界では、「自分で殺 した奴に祈るなんておかしい」と言われた。
けど、戦う奴には、基本的に何かしら守りたい物がある。命、家族、友人、資産、プライド……「約束」もそうだ。
俺だって自分や大切な人、約束は守りたい。今回戦ったアイツも、きっとそうだったのだろう。だから、祈った。



こうして、長き時間に渡る戦いは幕を閉じた。
不思議な世界に閉じ込められた客たちはまた同じ日常を繰り返す事だろう。
ある日やってきた少年によってその日常は突然終わるのだが、それはまた先のお話────


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