あれから1週間後────

ミーナ「久しぶりにメルちゃんに会いたくなってきたな……」

橋の下でそう呟いて香水を見つめる。

??「ふふふ……いい実験体発見ね」
ミーナ「だ、誰!?」

突然聞こえてきた声にミーナが振り向くと、大人の女性が数人の男を従え立っていた。

??「初めまして、私はイザベラ。あなた、素敵な耳を持ってるわね。それにしっぽも」
ミーナ「に"ゃっ!?」

イザベラに言われ、慌ててしっぽを隠し両手で耳を押さえる。

イザベラ「ふふふ、隠さなくていいのよ。私はあなたのこともっと知りたいもの」

そう言って近付く。
怪しい雰囲気を感じ取ったミーナはじりじりと後ずさった。

イザベラ「どうして後ずさるの?怖がらなくていいのに」

ミーナは首を振って拒否する。
イザベラは埒が明かないと思ったのか、後ろの男たちに無言で合図する。
男たちは頷きミーナに迫った。

ミーナ「やっ……やだぁ……!」

瞳を潤ませ恐怖で顔を歪める。
男たちがミーナを捕まえようとした時。

ミーナ「───っ!!」

猫の姿に変化し、全速力で逃げ出す。

イザベラ「……!!」

その様子に驚くイザベラだが、すぐにニヤリと口角を持ち上げる。

イザベラ「面白い子ね。益々気になったわ。さぁ、あの子を追いかけて」



ミーナ「はぁっ、はぁっ……!」

使われていない倉庫に逃げ込み身を隠す。

ミーナ(さっきの人たち……誰?なんなの?何をしに来たの??)

恐怖と混乱で頭が回らない。

ミーナ(怖い……怖い……助けて……!)

震える手で魔法陣を描く。
少し埃を被った床はミーナの指によって線が引かれていく。
ようやく魔法陣を描き終わった時。

イザベラ「見つけた……!」

倉庫にイザベラ達がやってくる。

イザベラ「さぁ、もう逃げ場は無いわよ。可愛い子猫ちゃん、私にその全てを見せて?」

少しずつ近づいてくるイザベラ。
ミーナは魔法陣に液を垂らし

ミーナ「メルちゃん助けて……っ!!」
そう叫んだ。

直後。

目の前が一色で染まるほどの赤いフラッシュがどこからともなく二回放たれる。
爆風が魔法陣の内側にいるミーナを軽く吹き飛ばしつつ。

爆音が聞こえるのが先か、現象を捉えるのが先か、香水を垂らした中心の位置に丁度、赤黒い稲妻が落ちる。倉庫の天井には大きな穴が開き、激しい雷鳴。
そのエネルギーで発生した黒煙に、人影らしきものが一つ。

???「……あら、弱い者いじめ?楽しそうね」

大きく広げられた翼が、収納された物の数々が容易に吹き飛ぶ風速で黒煙を吹き飛ばし、ついにその姿を現す。

メルト「私も混ぜて頂戴」

刹那、イザベラの取り巻きである男の一人に、高速で飛来する木箱が直撃。

ミーナ「きゃっ!?」

爆風に吹き飛ばされ尻もちをつく。

男「ぐあっ!?」

男は顔面に木箱を喰らい気絶した。

イザベラ「なんなのよあなた!あの子は私のものよ!邪魔しないで頂戴!」

突然の邪魔者に激怒するイザベラ。

メルト「あなたがリーダーなのね?……じゃあ、最後まで生かしておかなきゃ面白くない」

イザベラに対してニヤリとしながら、地面と平行に飛行すると、男の一人を“ついで”とでも言うように、着地と同時に翼で叩きつける。

メルト「こんな風に雑魚みたいに倒されちゃ、部下に面目が立たないものね?」

いつになく冷たい口調でイザベラに対して述べる。
クスクスと笑っているが、メルトのその眼には明確な殺意を認められる。

男「あぐっ……!」

地面に叩きつけられた男を見てイザベラは唇を噛む。
そして“こうなったら最終手段ね……”と呟き、目を赤く光らせた。

キィィィィィィィィィン

何かと共鳴する音がした直後、

ミーナ「えっ、わわっ!」

ミーナの体が勝手に動き出す。

イザベラ「最初からこうしておけば良かったかしら。本当はこんなことしたくなかったんだけど、欲しいものが手にはいらないなら無理矢理でも奪うしかないわよねぇ?」

表情は未だ険しいままだが、多少余裕が出たのかそんなことを述べる。

メルト「……その子をどうするつもりなのか、参考程度にお聞きしたいのだけれど」

からかうような態度を一転させ、殺気を前面に押し出す。余裕は無いように見えるが、威嚇やらを含めた意図のある行動である。

メルト「返答次第では、ふむ……どうなるやら」

まだピクピクと動いている倒れた男の腕を、徐々に力を入れながら踏みつけ、相手の反応を伺う。

ふらふらした足どりでイザベラのもとにたどり着いたミーナを優しく抱きしめ、髪を撫でる。

イザベラ「研究所に連れていくわ。まぁ、その前に美味しくいただいてから……だけどね」

ミーナを自分の手中に収めたことで安堵したのかそう答える。

イザベラ「ところで、貴方は何者?この子がとても信頼していたようだけど」

イザベラも相手に探りを入れようとする。
どうやらミーナが手に入れば後はどうでもいいようで、男が呻き声を上げても慌てる様子は無い。

メルト「研究目的ねぇ……まぁ、妥当というところかしら」

ミーナに触れるイザベラに嫌悪感を示すのを抑え、どうすれば相手を刺激できるのか考える。
男を踏み付けるのを止した。

メルト「彼女の生涯の伴侶、と言ったら?」

あえて無関心そうに、イザベラにそう問う。
あたかも、それが真実であるかのようにして。

イザベラ「面白いわねぇ。でも、それも今日で終わり。私がこの子をたぁっぷり可愛がってあげてから、研究所へ連れていくのだもの」

ミーナの頬を撫で、体を優しく触る。
最高の食材が手に入ったとでも言うように、うっとりした表情でミーナに触れる。

ミーナ「メルちゃん……!」

一方ミーナは全身を覆う恐怖に震えていた。

メルト「……」

数秒目をつぶって、深い溜息をつくと、諦観した表情で二人を見る。

メルト「ミーナ、あなたが口に出して言えば、私が何とかするわ。……望むなら言いなさい、“こいつを始末しろ”と」

悪魔の契約という現実を、躊躇しつつもミーナに叩きつける。
あなたが言わなきゃ本来私は動けないのよ、“助けて”だけじゃ足りないわ、と述べる。

ミーナ「……!」
ハッとしてメルトを見つめる。

ミーナ(私が望めばメルちゃんは私を助けてくれる……!)

そう思い口を開くが

ミーナ「……メルちゃん、ごめん……できないよぉ……」

口を何度も開閉して言葉を紡ごうとしても、自分の良心はそれを許してくれなくて。
ついに我慢出来なくなり大粒の涙を零しながらメルトに謝った。

イザベラ「ふふふ。ミーナ、あなたとってもいい子なのね。益々気に入ったわ」

メルトの言葉に警戒していたイザベラだが、何も起こらないとわかるとニヤリと嬉しそうに笑い、男達に指示を出してミーナを運ばせその場から立ち去ろうとする。

メルト「……ミーナちゃん」

彼女を見つめる。
試しにイザベラに戦意を向け、攻撃を仕掛けようとするものの、やはり契約以外の干渉行為を実行できないのか、鎖で繋がれたようにその場で立ち尽くす。

メルト(……純粋な子、可哀想に)

前髪で目が隠れてその表情は読み取れないが、辛うじてミーナに聞こえる程度の声量で、震えて問いかける。

メルト「……ここでそれを言えないなら、あなたはそれまででしょうし、私ともここまでよ。私に救う義務が発生しない限り、救う権利は発生しないのだから」

残酷だとは思いながらも、事実を述べなければならないと思い、葛藤の末発言しているようである。
継続してどうにか動けないかと“鎖”に抵抗しているが、絶対的な抑止力の前にサキュバスが出来ることはなく。

ミーナ「メルちゃん……っ!!」

立ち尽くすメルトを見て、ミーナは叫ぶ。

ミーナ(このままメルちゃんとお別れなんて、絶対にやだ……!!)

今ここで言う言葉よりも、メルトとのお別れの方が辛かった。
唇を噛み締め、大きく息を吸い込む。

ミーナ「メルちゃん!!この人たち始末して!!」

イザベラ「なっ……!?」

突然の発せられた言葉にイザベラたちは狼狽える。

メルト「……!」

その一言に反応して、途端に拘束が解ける。無理矢理に抗おうとしていた影響か、ガラスの割れるような音が響く。試しにイザベラをキッと睨みつけると、先程までの不自由を全く感じない。

メルト「上出来よ、ミーナ」

凄まじい初速で敵の至近距離に詰める。加速の必要も無い。

彼女に触れている男達とイザベラを除いて、自身を阻害しうるものを順々に攻撃していく。

メルト「失礼、気が立っているの」

翼で容赦なく強打しては、尻を突き出して壁へ跳ね飛ばす。その豊満な胸を使って敵を押し倒したかと思えば、天井近くまで飛び上がると、トドメに両足を揃え、腹部に急降下して蹴りを入れる。
共通して言えるのは、まるで手加減がなく、人間を玩具の如く扱い、致命傷を与えていることである。ミーナの目に悪いと思うが故なのか、出血するような攻撃をしていない。
その間、10秒も経たず。

メルト「あなた達もこうなりたいの?……今すぐその子から手を離して、妙な真似しないなら見逃してあげるわ」

連れ去ろうとミーナを運ぶ男達にそう述べる。冷酷な目つき。

男たちは情けない声を上げて逃げていった。

ミーナ「メルちゃんっ!!」

イザベラは集中力が途切れたのか、いつの間にか彼女の異能も解けていて、自由になったミーナはメルトのもとへ駆け寄り抱きついた。

イザベラ「くっ……!あんたさえいなければ……!」

イザベラは勝ち目が無いと思ったのか、悔しそうな顔をして去っていった。



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