窓から差し込む光が大分明るくなった、と上がりきらない重い瞼を瞬かせて思う。 枕元に置いてあるスマホを確認すると時刻は10:45と表示されていた。意外とよく寝たかな。 まだもう少し寝たい気もするけれど、体を起こしてテーブルのあるリビングを覗く。 昨日と同じ体勢で、掛けてあげたタオルケットはとばして幸せそうに眠る彼を見て自然と口元が緩む。 昨日の食べっぷりから想像するに、きっと三食しっかり食べることだろう。 冷蔵庫を確認すると卵、ベーコン、野菜のきれはしたち、ヨーグルト。冷凍庫には食パンと鶏むね肉、今日朝ごはんに使えそうなのはこんな程度かな。 鶏むね肉を薄く切って、下味をつけたものに薄く粉をつける。温めたフライパンにそれを並べて、溶いた卵とチーズを合わせたもの流し込めばまずピカタの出来上がりだ。焼きあがった卵と香ばしいチーズの匂いが、食べ物を消化しきった朝の自分の体にはたまらない。 野菜の切れ端たちは炒めたベーコンとコンソメ入りのスープで軽く煮込む。味は少し薄いくらいがちょうどいいだろう。 チンと音がしてトースターからは食パンが飛び出る。 ヨーグルトにはブルーベリーのジャムを添えて、昨日同様リビングのテーブルに二人分の食事を並べた。 昨日もう少しあればうれしいと言っていたから、パンは彼用に2枚焼いた。朝というよりはブランチだけれど、起き抜けだし十分だろう。 「エースくん起きて、朝ごはん。」 寝ながらも食べ物の匂いを察知しているのか、ひくひくと動く鼻をつまんで、昨日と同じように声をかけた。 勢いよく起き上がった彼は、ぼーっとあたりを見回すとテーブルに並べられた朝ごはんを見て目を輝かせる。 「なあっ!ナマエ、おはよう!これ、食べていいのか!」 「おはよう。先に顔洗った…ら…」 聞いちゃいない。苦笑してしまうほど、彼はいただきますと口にしてからすぐ食べ物に手を付けた。 昨日急に寝落ちしてしまったけれど、彼は昨日のことをちゃんと覚えているのだろうか。まあこの感じだと覚えてはいるだろうけれど・・・覚えているにしても、人のことを言えた義理じゃないが彼の順応能力は高すぎる。 ただ、素直にうめえうめえと笑う彼を見るのはやっぱりうれしい。自分もスープを口に運ぶと、なんとなくいつもよりもおいしく感じた。 「そういや、寝て起きてもなんも変わんなかったな。起きた時は昨日の記憶半信半疑だったけど」 「え、うそでしょさっきすぐご飯食べてたのにあれで半信半疑だったの?」 「出されたメシはすぐ食うのがいちばんうめェからな!」 朝ごはんも済み顔を洗いにいったエースくんは、そういいながら戻ってきてソファに腰かけた。 昨日は床で寝させてしまったので体はいたくないかと問うと、こんなことはいつもだったから平気だと彼は言う。まあ、そうか海賊だもんね。頭の中に思い描く海賊は、たしかに床で雑魚寝をしていそうだとは思う。 まあとりあえずとシャワーを促すと、おれ風呂あんまり好きじゃねェと顔をゆがめる。 ・・・確かに、海賊ってお風呂入るイメージそんなにないかも。 海の上で生きているんだ、水だって限られているだろうし・・・あ、海の上だから水はいっぱいあるのか?よくわからん。 ソファの上でしっかりくつろぎながらうへえとつぶやく姿に、本日二回目、高い順応能力への驚きを感じる。 「人んちで過ごすからにはちゃんとお風呂入って」 「うぇー。ナマエ、イゾウみてェなこと言うなよなあー」 「風習も近いからじゃない?さ、いったいった!」 ぐだっと姿勢を崩すエースくんはペットを通り越してもはや大きな息子みたいだ。 話を聞く限り日本に近いであろうところで育ったというイゾウさんはさぞエースくんに苦労を掛けられたのだろう。 のろのろと立ち上がる彼に、部屋着用として兄からもらったTシャツと短パン、バスタオルを渡して背中を押した。 今のうちに洗濯機も回してしまおう。仕事の日には料理以外のことはとんとする気が起きないから、休みの日にまとめてすることになるけれどまあ、洗濯機を回して干し忘れるなんてことにはならないからこのままでいいだろう。 「なァ―――!ナマエ―――ッ!これどうやったらお湯出るんだよー!!」 ・・・あ。お風呂場から響く声にハッとする。 そうか、海賊の船に電動の水温調節機能なんてあるわけがない、失念していた。 「なあって!!!」 バタン!勢いよくドアを開けて出てきた姿を見て、はあ、と自然に手が額に向かってしまうのもしょうがないだろう。 視線の先にはびっちゃびちゃのエースくん。もちろん足元では水がぴちゃぴちゃと音を立てている。 拾ったのは、どうやらとんでもないバカ息子だ。 「エース!!人んちの床びっちゃびちゃにしてんじゃない!!!」 笑顔は間違いなく魅力的で、寂しいなんて感じる暇もおそらくない。だけれど、前途は割と多難かもしれない。