ぽかんとしている彼に、海賊はどういう生活をしていたのかと問うと、それはそれは嬉しそうな顔に変わり語りだした。 単純、だと思う。 先ほど年は20といっていたか。 若いだなんて偉そうに言えるほどの年の差ではないけれど、純粋で幼いなとは思う。社会人になってから飛ぶように過ぎた年月を思えば、大した年の差ではない。幼いころに憧れた25歳は、もっといろんなことができていたように思う。 けれどきっと、幼いころにあこがれていた大人はみんなそうなのだろう。年を重ねなければわからないこともあるといったのは、店長だっただろうか。 好きな仕事をしていて、けれど社会に出ていろんな壁にはぶち当たって。幼いころに描いた夢に近づけば近づくほど、現実というほの暗いものが思考を覆う。そういう時に、彼みたいな人と出会うとそれが眩しいような、はっとさせられるような、そんな感覚がするのだ。 呑んで笑って、戦って。そういう日々を過ごして、とても楽しかったのだとそう語る彼の口は止まらない。 うん、うんと頷いて笑うと、また嬉しそうに話を続ける。 もう大分、明けすら近いのではないかと窓を見て思うけれど、目の前で話すエースがとてもうれしそうで、また頷いた。 「それでよ!・・・ふがっ」 急に話が途切れたと思えば、彼はいきなりゴンと盛大な音を立てて机に突っ伏した。 え、なに死んだの?慌ててラグのほうに彼の体を倒すと、彼は額を真っ赤にさせて気持ちよさそうに寝息を立てていた。 何も知らない彼のことが一つ知れた。酔いが急に回るタイプなのだろう。おそらく、だけれど。 飲みっぷりがいいもので次々に缶を手渡してしまった自分にも問題があるのかもしれない。心の中でごめんねとつぶやく。 寝顔は三割り増し幼くなるな。そんなことを想いながら、彼にタオルケットをかぶせた。 時刻はもう5時も手前だ。 シャワーを浴びながら、自分はとんでもないことをしでかしてしまったんじゃないかと酔いと共に頭が冷えてくる。 見ず知らずの違う世界から来た男の人。成人済み。なまえはヒモをゲットした、てってれーん、というような感じだろうか。 職業柄、お賃金はいいものではないけれど同時にそれの使い道も休みの日の食べ歩きくらいしかないもので、まあ一人増えても今すぐお金がなくて死ぬだなんてことはない。 控えめに言っても彼の顔は整っている。話は聞いていてとても楽しいなと思う。少しの時間しか一緒にいないけれど、肩ひじ張るほどの気も使わなくてよさそうだ。 「…ペット。」 そう、ペット。そんな感覚かもしれない。段ボールにくるまれてはいなかったけれど、道端で撫でたらついてきました、的な。彼には大分失礼な認識だけれど。そう考えてようやく、あの漫画のヒロインの気持ちが分かったかもしれない。 毎日体はしんどくとも仕事も充実している。けれど、どこか。 「…さみしかったの、かもしれない。」 だから、魔が差した。 うん。それが自分の中で、飾らない一番しっくりくる言葉な気がした。 感覚的に真っすぐで嫌な人ではないと思った。困っているなら、助けてあげるから寂しさを紛らわしてほしいと思った。 とんだ承認欲求の塊だなんて自嘲気味に笑う。 急に来たのだから急に帰るのかもしれないし。まあ、もう決めたのだからあとはなるようになる。 自店の店長の口癖を思い返して、風呂場を後にした。 なるようになる。そうだ、なるようになる。まるで彼の話す海賊たちのようにお気楽だなあ。誰もいない洗面台の前でクスりと小さく笑った。