不良優等生の帰還

朝、遠くから聞こえた警報の音で目が覚める

撫子はため息をつくと時計をみる

7:30

もう家を出る時間だ

ヤバイっ

撫子は急いでベッドから飛び上がり、支度をはじめた



「あれ?今日買ったやつなんだ」

「うん、寝坊しちゃって」

「珍しいこともあるのね」


その日の昼休み

いつものように狭間と向かい合って昼食をとる

いつもお弁当の撫子に狭間がきいたのだ


「アンタの卵焼き楽しみにしてたのに」

「えー、ごめんねー」

「明日は作ってきなさいよ」


のんびりご飯を食べていると教室のドアが開く


「今日からの体育は俺が教えることとなる、皆よろしくたのむ」


長身の成人男性

防衛省の人間で、名前を烏間惟臣という

先日、正式にE組の副担任となり、体育の教科担任になたったのだ

殺せんせー暗殺のための訓練を主に指導してくれる


「私、結構烏間先生いいなーって思ってる」

「えー!城戸さんも!?」

「え?」


撫子の言葉に反応したのは倉橋陽菜乃

可愛い顔を少し顰めさせ(それでも可愛いだけだった)撫子を睨みつける(それでも可愛いだけだった)


「私が先につばつけたんだよー」

「?」

「だーかーらー!烏間先生のこと!」

「?」

「烏間先生いいなって言ったでしょアンタ」

「?・・・あ!あー!!違う違う!そういう意味じゃないよ!」


どうやら倉橋は烏間に憧れににた恋情を抱いているようだった

撫子は狭間の言葉でようやく気づき、否定する


「あぁいうキチンとした人に訓練してもらえるのっていいなーって思ったんだよ」

「あー!なるほどー」

「でも、訓練に興味あるって変わってるね」


倉橋の隣で黙っていた片岡メグが口を開き、またその隣にいた矢田桃花もうなづく


「そう?」

「そうそう」

「でも烏間先生に手取り足取りって感じなら私も楽しみだなー!」


そんな話をしているうちに、五時間目のチャイムが鳴った

***

1、2、3、4・・・・・・

天気は快晴

外の温度も暖かく風が心地よい運動日和だ

殺せんせーはそう思う


生徒達の手に獲物さえ無ければの話だが

本日から体育の授業は暗殺の訓練になる

今はナイフ捌きの訓練だ

上下左右とナイフを振り上げ振り下ろす

ナイフと言っても本物ではなく対先生用のゴムでできた特殊ナイフだが

撫子は言われたようにナイフを捌いていく

そんな撫子をみて烏間は疑問を感じた

撫子は他の生徒よりも優れていたのだ

いくら器用だったとしても今日初めてナイフの正しい振り方を教わったなら少なからず動きのぎこちなさは残るはずだ

なら、どこかでナイフを扱った経験があるのだろうか

戦闘経験やそういった組織に所属しているなら烏間に連絡はいくだろう

だがそのような報告はない

なら考えられるのは素行不良、喧嘩などの悪事で利用していた・・・・・・

しかしそれも彼女の生活態度を見る限りだと可能性はかなり低くなる

理由はわからない

だが技術があるのは事実だ


「城戸さん」

「・・・はい?」


授業が終わり、皆が教室にはいっていく中烏間に呼び止められる


「放課後、少しいいか?」


特に断る理由はなかったので、唸つく

烏間から離れると校舎の方が少し騒がしいことに気づいた


「どうしたの?」

「赤羽、復帰したのよ」


ほら、と狭間が指さす方をみると赤い髪の毛の少年が目に入る

初対面の殺せんせーに握手しようと手を差し出していた

殺せんせーも触手を1本差し出す

そして握りあった時・・・・・・

触手がはじけた


「ねぇ、初めてじゃない?先生の触手壊した人」

「・・・そうね」

「びっくりしたよ」


コイツ本当に驚いてんのか?という顔をして見られたがスルーだ

撫子は触手が壊れたことよりも次の時間の小テストの方が重大だった

少し勉強しよう

撫子はいそいそと教室に戻っていった

***

6時間目

赤羽業は出された小テストを難なく解いた挙句殺せんせーを挑発し遅刻した癖に授業の途中でさっさと帰っていったのだった

皆がスゲーなどと思っている中撫子だけは「あ、コイツ隣の席なんだ」と斜め上の事を考えていた

そして放課後

烏間の用があると狭間に伝え烏間の元に行く

烏間は人にみられないよう校舎裏に連れ出すと対先生用特殊ナイフを差し出し「本気では殺しにこい」と言ったのだ


「は?」

「俺も本気で殺しに行く」

「ちょ」

「始めるぞ」


勢いよく烏間の手に握られたナイフが撫子を突き刺しに行く

撫子は間一髪でよけ間合いをとる


「いきなり何なんですか!」

「城戸さん、君は現時点で他と比べ物にならないくらい戦闘能力が高い、どこかで訓練でもしてきたのか?」

「それは」


答えはしない

言えない、言わない

撫子が黙っている間も攻撃は続く

撫子はただ避けていた

きっとこっちがけしかけない限り終わらない

撫子はかわし続け、そして


「っ」


隙をみて烏間にナイフを突き刺そうとし、視界が反転した


「実力、技術とはあるが圧倒的に経験が足りない」


烏間は突き刺そうとした撫子の腕を掴み、背負い投げを決めたのだ


「もし、君がよければ放課後こうして実戦形式で他の生徒よりも早く指導したいと思う」

「・・・・・・授業が、六時間目まである日の放課後、なら大丈夫です」

「他の日は・・・・・・」

「・・・・・・私もちゅーがくせーなので遊びたい、です」


撫子自身とても有難いことだ

理由はともかく強くなりたいと思う撫子に取って防衛省で軍にも所属していた烏間の指導は喉から手が出るほどのもの

しかし撫子も中学生で女の子なのだ

放課後遊びたいし勉強もしたい

烏間はそれを汲み取ったのか六時間目が割り振られている火曜日と木曜日を放課後指導の日として撫子に今日と同じ校舎裏に来るよう指示したのだった


「よろしく頼むぞ、城戸」

「・・・・・・・・・はいっ」


「さん」が消えたのが少し嬉しい

そう感じた

***

翌朝、クラスの空気が重い

それもそのはずだ

教壇の上にはカルマが仕掛けたタコの死体

どうやら殺せんせーを怒らせその隙に暗殺・・・できたらいいなぐらいのようだ

撫子はチラリとカルマをみる

あーあー、ニヤニヤしちゃって

ガラッと扉が開き殺せんせーが入ってくる

すぐにこの空気の重たさに気付き視線を教壇に向ける

少し困った声を出す


「殺せんせーと間違って殺しちゃった、片付けるから持ってきてよ」


ため息をつき、タコをもち、そして・・・


「!!」


すぐに消えたと思うとミサイル(なんか火がふいてる)と調理器具や小麦粉などの材料

殺せんせーは楽しそうに笑う


「先生はね、暗殺者に手入れをするんですよ」


そしてカルマの口に入っていたたこ焼き

コイツ、ミサイルでたこ焼き作んのかよ

美味しそーだなーと眺めていると自分の席の上にもたこ焼きが置いてあるのに気づく


「カルマ君、その顔色では朝食を食べていないでしょう?城戸さん貴女もです!朝ご飯は一日の大切な栄養源!食べるように!!」

「はーい・・・・・・」


御丁寧に楊枝もついていたので一口食べてみた


「おいひぃ」

「どれ」

「はひ、はーん」

「食べながら喋らない」


熱々のたこ焼きを狭間の口の中に入れる

どこからかいいなーという声が聞こえたが気にしない

撫子の一日は美味しいから始まった

***

家庭科の時間ではフリルのついたエプロン

他にもネイルや髪型を七三にするなど今日一日カルマが散々な目に合うのを横でみてきた撫子

面白かったーと言いながら手にクレープを持って狭間と歩いている

きっとあの先生のことだ、カルマの事も良いように手入れしているのだろう


「そういや昨日、どうしたの?」

「んー?あぁ、烏間先生とマンツーマンで戦闘訓練」

「は?」

「私なんと他の奴らより強いらしく目をつけられたぜ!」

「・・・・・・・・・アンタそれ」

「初日なのにゲロ吐くまでやらされてさー!辛いのなんのってね」


狭間は何か言いかけたがそれを遮る

これは自分で望んだことだから

だから大丈夫だよ


「無理はしないでよ」

「ははは、頑張る」


少し路地裏に差し掛かった時だ

いきなり空間に黒いヒビのようなものがはいり円状に広がる

撫子はそれを知っていた


「綺羅々ちゃん!」


撫子は狭間の手を掴み反対側に逃げる

が、そこにも煮た亀裂が入っている

塞がれた


「コレって」

「門(ゲート)だよ・・・・・・とりあえず逃げよう」


撫子は狭間を抱えると挟まれた二枚の壁を器用にとび蹴りながら上へ登っていく

上についた時、亀裂の隙間から前足のような部分が鎌のようになっている化物がでてきた


「トリオン兵だ」

「ボーダーに連絡する?」

「基地から近いしすぐにくるでしょ、あとはボーダーに任せて行こう」


撫子は暫く屋根の上を走り、人気のないところで着地する


「あ、クレープ置いてきちゃった」

「あーぁ」

「残念」


二人は何事も無かったかのように歩いていく


「終わったか?」


長髪の男の問に黒髪の少年はうなづく


「あら?これは」


綺麗な髪の女が落ちていたクレープに気づく


「誰かいたんですか?」


遠くから男の声が聞こえる


「だが、連れ去られた形跡もない」

「でも門はほぼ同時に開いたんですよね?」

「かなりの運動能力かもしくは運良く逃げきれたか」


ふと、少年が小さなメモ帳のようなものをみつける


椚ヶ丘中学校3-E 城戸撫子


生徒手帳だ

少年は少し目を見開き、他の面々に気づかれないようにそれをしまう


「まぁ、連れ去られた形跡は言った通りないし行こうか」


長髪の男の一声にそれぞれ返事をし、ボーダー本部基地へと向かう

少年は生徒手帳の入ったポケットを少しだけ強く握った

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