殺し屋の女
新任教師が来た
イリーナ・イェラビッチ
今日から英語の授業を担当してくれる、らしいのだが
撫子はこの女を知っていた
「予想できてると思うけど殺し屋だよ、あの人」
「知ってんの?」
「ちょっとね」
流石に知り合った内容は言えないので言わないが、イリーナと目が合った時顔を顰められたのできっと向こうも覚えているのだろう
撫子は不登校になるか本気で考えた
が、そうなったら今イリーナにデレデレしている担任が家に押しかけてでも迎に来るのだろう
そんな教師だ
今はそんなもの見る影もないが
「撫子、サッカー混ざらないの?」
「今日は放課後烏間先生とアレだから体力とっときたい」
「あぁ・・・頑張って」
遠目からサッカー、もとい殺せんせーを殺すために鍛える暗殺サッカーを眺める
イリーナが殺せんせーに近づくのがみえた
殺せんせーと一言二言話すと殺せんせーが飛び立っていく
磯貝悠馬がイリーナに何かを言うのがみえた
そして、イリーナが纏う空気が変わったのも遠目でわかった
「・・・・・・授業始まるよ」
「そうね」
撫子は静かに席につく
ふと、初めて会った時を思い出す
父の腕に手を絡めるイリーナの姿
その姿をみて、父と話せたのは一週間はたってからだった
「あの先生、嫌い」
「はいはい」
狭間は黙って撫子の頭を撫でた
***
授業らしい授業もなく、烏間の受け持つ体育となった
ナイフを片手に烏間に当てにいく
「おい、殺せんせーとビッチ姉さんがどっか行くぞ」
ちなみにビッチ姉さんとは先ほどの授業で生徒がつけた名前だ
撫子はイェラビッチさんと呼ぶつもりだ
「なんかショックー、あんな見え見えの色仕掛けでホイホイついていくなんて」
誰かが言う
撫子も、そう思った
「アンタのお父さんでも見抜けたんだから大丈夫でしょ」
「あの人は、自分の仕事に関係ある人にしか興味ないよ」
私にも興味ないんだ、あんな殺し屋に興味があってたまるものか
顔を歪める
すると鳴り響く銃声音、そして直後にイリーナの悲鳴
生徒達は気になり二人が去っていった方向、もとい体育館倉庫へむかう
「殺せんせー!いったい何が・・・」
後を追いかけると殺せんせーとブルマというやたらとレトロに健康的になったイリーナが
「いやね、大人には大人の手入れがあるんですよ」
殺せんせーが大人の顔になった
***
ざわざわと教室内が騒がしい
次の授業が英語なのだ、仕方ないだろう
そうこうしているうちに勢いよくドアが開き、イリーナが入ってくる
「You are incredible in bed,」
カツカツと靴を鳴らして黒板にたどり着くと黒板に書いた文章を読上げ、有無を言わさず生徒達に繰り返すことを促す
イリーナが語るところによると、とあるVIPの暗殺のさいに、ソイツのボディーガードに近づいた時に言われたらしい
意味は「ベッドの上では君は凄いよ」
「中学生になんて文読ませてんだよ」
「・・・」
毒づく撫子をみて、狭間はクビをかしげる
果たして、この子はこんなに人に嫌悪感を表すような子だったかと
少なくとも狭間の知っている撫子はよっぽどのことがない限りこんなに嫌悪を表す奴ではない
ということはだ
「アンタ、ビッチ先生に何かされたの?」
「え、何で?」
「アンタがそこまで人を嫌がるの初めてみた」
「私も人間だから嫌いになるよ」
狭間が思い当たるのは、撫子の父親関連だろう
昔何かあったのだろうか
「あまり怖い顔しない」
「・・・はーい」
顎を机の上にのせ、ぶーぶー言い始めるが目つきは柔らかくなったのを確認して視線を前に戻す
イリーナが撫子を見ていたのに気づいた
二人、否三人の間に一体何があったのだろうか
狭間は気にはなったが、撫子が言わないということは、言えないということだと思うと自己完結した
***
「どうした、上の空だな」
「そんなことないですよ」
ナイフを交わし、突きつけては交わす
数回目になる烏間との個人訓練
攻撃しながら話をする余裕がでてきたようだ
「なんで、殺し屋が教師やんですか」
「上の意向だ、口出しはできん」
「そうですか」
この会話を最後に撫子は口を閉ざしてただただ烏間にナイフをあてにいく
たが苛立っているからかなかなかナイフは届かない
「今日は終わろう、らしくないぞ」
「・・・そーですか」
イリーナの顔が横切ると苛立ちをかくせなくなる
撫子自身今日はもうダメだと思ったのですんなりと今日の訓練を終わらせる
教室に置いた荷物を取りに行こうと戻ると、イリーナがいた
「久しぶりね、城戸撫子」
「私の記憶に貴女の存在はありません」
「よくいうわね、あんなに睨んでいた癖に」
イリーナな不敵に笑い、撫子に近づく
「お父様は元気?」
「・・・知りません」
「はぁ?父親でしょ?何言って」
「家に帰ってこない人のことなんか、知りません」
乱暴に荷物をとると教室から出ていく撫子
イリーナはその姿をみて数年前のことを思い出す
自身に銃口をつきつけ、娘に手を出したら殺すと言い放った男
娘を溺愛しているようにみえたのだが
いったいどういうことなのか
とりあえず、当時の記憶と共に蘇る撫子に言った言葉を思い出し、どうすれば水に流してくれるかを考えた
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