思った以上に重たいけれど

「アリシアさんと団長って仲悪いんですか?」


翠緑の蟷螂団でも数少ない女性団員の後輩達とお茶をしていたら突然そんなことを言われ持っていたティースプーンをテーブルに落としてしまう

慌ててテーブルを片付けようとする後輩達を宥めながら自分で片付けをし、何故そのように思ったのか聞いてみた

団長との仲を聞いた後輩以外も皆私と団長の仲は良いとは思えなかったようで次々と口を開いて理由を述べてきた

曰く、何時も口論が絶えない、距離が遠い、そもそも仲良さそうに話しているところを見たことがない

何より団長が私と話した後よく睨んでいるらしい

そこではて、と首を傾げた

口論で思いつくのは仕事内容ぐらいだし、距離は普通だと思う

仕事中に無駄話するぐらいならさっさと片付けて家でのんびり会話をしたいからあまり長くは会話しないだろう

だが睨んでいる、とはいったい何なのだろうか

私達は恋人のはずだ

睨まれるような間柄ではない、はず

私は女性団員の中では僭越ながらそれなりの実力を持っている方だ

だから後輩達をかばい何かと衝突しているのでは、と不安に思ったいたらしい

心配そうに見つめる後輩達に私は笑顔を作ってみせる


「仲は悪くはないよ」


恋人なのだから、当然だ

安堵したように笑う後輩達を横目にどうやって睨んでいた理由を聞こうかと考えた

***

「だぁかぁらぁ!お姉さんが相手してくれるんだろぉ!?」


非番中酔っ払いに絡まれた女性を助け酔っ払いの男に注意していたら厄介な絡まれ方をしてしまった

こういった状況に巻き込まれやすいのは私の運が悪いのかはたまた抜けているだけなのか

元カレと比べたら可愛らしいものだがそろそろ離してもらいたい所である

もう一度言葉で伝えて、それから・・・


「その辺で終わりにしておけ」


何処かで聞いたことがある様な声に振り返ると碧の野薔薇の団長が立っていた

ローブを纏っていない様子を見て同じく非番の様だが流石は魔法騎士団団長である、人睨みで酔っ払いはいなくなってしまった


「すみません、お手数お掛けしました」

「魔法騎士団として当然のことだ」

「あはは」


男一人追っ払うことも出来ないとは何て情けないのか

私も人睨みで追い払えるようになりたい


「・・・」

「どうかされましたか?」

「いや、なんでもない」


じっと見てくる碧の野薔薇の団長の視線に問えばそう答えられる

そう言えばこの前ジャックから貰った薔薇はこの方のオススメの店で購入したと言っていた

でもこの場合お礼を言ってもいいのだろうか

というかジャックは私との関係を公言していない

相手が誰かは伝えてないのかもしれない、なら変に言葉をかけるのは・・・


「アリシア、と言ったな」

「はい!?」

「今から少し時間を取れるだろうか」


何故私の名前を知っているのかとか、何の用なのだろうかと疑問に思いながら、結局は碧の野薔薇の団長にただ無言で頷くことしか出来なかった

***

何故かディナーを共にすることになってしまい、食事をしながら話を聞いているとある事に驚き素っ頓狂な声を上げてしまう


「え、料理、ですか?」

「ジャックから色々聞いている、そこでアリシアがその、上手いと聞いたから」

「私はせいぜい家庭料理ぐらいで大したものを作れるわけではないですよ?」

「それでいい、いや、それがいいんだ」


意外なことにシャーロットさん(歳も近いし身分は貴族なのだからと直された)は料理が苦手なようだ

でも確かに貴族は早々自ら料理はしないだろうと納得するが、なら何故料理をしたいのだろうかと疑問に思う

それが声に出ていたようでシャーロットさんは視線をうろつかせながらもごもごと口を動かす

聞き間違えでなければ「惚れた男がいる」と聞こえ・・・


「へ、へえええええ!!?」


カタカタとナイフとフォークを振るわせながら平静を装い肉を切ろうとするができない

シャーロットさんは顔が真っ赤だし嘘だろ

となると、相手の男性が料理を作る女性が好きなのだろうか?

でもここまでシャーロットさんに想われる男性とはいったい・・・


「・・・たいして親しくもない相手からこんな事、本来なら嫌だろう」

「へ?」

「他団とはいえ団長相手に断らずらいのだろう?」

「いえ、お教えするぐらいなら一向に構わないのですがお時間とか大丈夫ですか?シャーロットさんの非番に合わせますけれど・・・」

「・・・まて、いいのか?」

「はい」

「何故」

「ジャックがその、シャーロットさんに世話になったと聞いたので、そのお礼です」


そこでふと、あることに気づく

ジャック以外の相手にジャックと言ったことが無いことに気づきあぁ、お付き合いしているんだなと思ったらだんだんと恥ずかしさやら照れくささやらで顔が赤くなり声も萎んでいく

何故赤くなったのか分からないシャーロットさんは首を傾げこちらを見ていたが今はそれどころでは無い

気にしないでくださいとパンを千切り口に入れる

何とか持ち直しその後は和やかに食事を終え、また後日料理は教えるという事で纏まった

店を出て向かう方向が逆だからとその場で別れる直前、私とシャーロットさん共通の知人が現れる

黒の暴牛、ヤミ団長だ

声をかけてきたヤミ団長に慌てふためくシャーロットさんにえ、まじで?と凝視してしまう

じっと2人のやり取りを眺めていると何かに照れ顔を赤くし居なくなっていくシャーロットさんに「また後日」と声を掛けヤミ団長に失礼しますと言う

おー、悪かったなと返事が帰ってきてそのまま互いに振り返り別れるはずだった

ドゴンっ!!

私とヤミ団長の間に出来てた1メートルほどの距離の間に突然亀裂が入る

この魔法は知っている、よく知っている


「テメェヤミ!かっ裂くぞ!!」


ぐい、と後方に引っ張られ抱きとめられると頭上から大きな怒号が響く

顔だけヤミ団長に向けるとポカーンとなんとも言いがたい間抜けな表情をしていた

それよりも店は無事そうだが店の扉の前がぐちゃぐちゃである

怒号と破壊音に気づき戻ってきたシャーロットさんも驚いた表情をしていた


「あの、何か勘違いしてません?」

「勘違いも何もアリシアとヤミが一緒にいた時点で俺の機嫌は急降下だ」

「やだ嫉妬深い」

「これでも我慢してる方だ」


え、まじで?

驚きすぎて声が出なかった

騒動の最中で民間人は遠巻きに私たちを見ている

待って、これめっちゃ今恥ずかしい状況なのでは・・・?


「待ってジャック1回離してくださいっ」

「ちっ、下がってろよ」

「いや、下がらないですよ!?どうするんですかこれ!!」

「後でアリシアが直しときゃいいだろ、俺は今からアイツを切り裂く」

「落ち着いてください、色々と勘違いしすぎです」

「・・・帰ってもお前居なくて探してたらヤミといた俺の気持ちがわかんのかよ」

「んんっ!!」


なんか変な声が出た

ジャックってそんな不安そうな表情出来るんですね!?

頭の中は荒ぶりどうすればいいのか分からなくなる

ポンポン、と肩を叩かれ振り返るとシャーロットさんがなんとも言えない表情でこちらを見ている


「そこ、アリシアの魔法で直せるんだな?」

「あ、はい」

「じゃぁまず先に直してくれ」

「・・・はい」


魔導書を開いて魔法で直していく

その間もジャックはヤミ団長を睨みながら私のそばを離れようとしない

1歩でも近づくと切り裂く勢いである


「え?何?どういうこと?」

「そういう事だ」

「え?何?ジャックのコレなの?まじで?」


小指を立ててシャーロットさんに話しかけるヤミ団長にさらに苛立ちを募らせていくジャックをどうにかして止めないといけない

何とか修復が完了し、さっさとジャックを連れて帰ろうと腕を引くと意外と大人しく着いてきてくれた


「お騒がせしました」


シャーロットさんやヤミ団長にはもちろん、店内にいた店員や客に謝ってからその場から立ち去る

終始不機嫌ではあるが私の手を握り返してくれる当たりそこまで不機嫌ではなさそうだ

私の足の速さに合わせて帰路に着く私たちを信じられない物を見るように凝視するシャーロットさんとヤミ団長には気づかない


「縦長ラインマンまじかよ」

「正直驚いたな・・・」


ジャックを見直している2人の事など全く気にせず笑い合う

翌日ジャックの琴線に触れて激怒させ乱闘騒ぎになったと噂が噂を呼び1日団員たちによって強制的に避けられるようになるとは全く思ってない

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