酒は飲んでも飲まれるな
「そういえばジャック」
「んだよ」
「勤務中ジャックと話したあと私のことを睨んでいるって目撃情報あったんですけどなんでですか?」
「お前が団長って呼ぶからだろ、誰だんな事言った奴」
「黙秘します、というか団長は団長でしょう?」
「恋人に他人行儀にされて喜ぶ男はいねぇよ」
ある休日の昼下がり、2人でソファーの上でだらけている時にふと思い出し聞いてみると少し不機嫌そうな声で答えが返ってきた
余りにも可愛い理由に読んでいた本を手で抑えながらケラケラと笑う
「だからって睨まないでくださいよ、うちの女の子達皆心配していたんですよ?」
「別に殴るわけじゃねぇんだ、何心配すんだよ」
「多分皆私達がお付き合いしてる事に気づいてないですよ」
「・・・は?」
一気に不機嫌になったのが分かった
本を取られ近くのテーブルに置かれるとグルンと視界が回ってジャックの顔が目の前にまでくる
あー、怒ってる
怒ってる顔もカッコイイともうどうしようもない事を考えている事がバレたのかなんなのか不機嫌なまま軽く頬を抓られる
大して痛くはないのだが痛いと訴えてみると直ぐに手は話されそのまま抱きつかれた
この人のこういう所がどうしようもなく好きだ
「・・・言いふらすか」
「必要ある?」
「嫌なのかよ」
「嫌じゃないけど私めちゃくちゃ独占欲強いみたいじゃないですか」
「は?」
「え?」
「お前が言うの?」
「・・・あ」
「へぇ」
向かい合った状態でジャックの両手で顔を固定され、顔を隠すことが出来ない
ボボボと顔に火がついたように熱くなったのだから今の私の顔は真っ赤だろう
「かーわいぃ」
「そういう事他の人に言わないでくださいよ」
「お前だけだっての」
そして一つキスをすると2人で笑ってまた今度は私から抱きついた
***
「アリシアさん!恋人が出来たなら言ってくださいよぉ!!」
今日は後輩の女の子達と呑んでから帰ると言ってあるのでこの前みたいに探される事はないだろう
ジャックも呑んでから帰ると言っていたので何故かバレている恋人の存在を後で教えてあげる事にしようと思った
「心配していたんですよー!前の人も散々だったみたいだし」
「本当に男運ないですよねー、先輩!でも私達は先輩の味方ですから!!」
「ほらほら!どんな人なんですか!教えてくださいよー!!」
「えー、どうしようかなぁ」
ほろ酔い気分でそんな話をしていると後輩達が顔を青くして私の上を見ていた
なんだろうと振り返るとジャックの姿が
え、もうお迎え?
「俺も知りてぇなぁ」
「えー」
「ま、俺達もあっちで飲んでるから終わったら声かけろや、奢ってやる」
「えぇ!?」
「いいんですか!?」
「今日はヤミ達の奢りだから懐が厚いんだよ」
楽しめよ、と一言残し指さした方に向かう
そこにはいつもジャックが一緒に飲んでいるヤミ団長だけでなくフエゴレオン団長やノゼル団長もいた
フエゴレオン団長はちょくちょく話に聞くけどノゼル団長がいるのは珍しい
色めき立つ後輩達を横目に、同じ店にいるのに一緒に飲めない事を落胆する
元気ないですね?呑みましょう!!と酒を注がれ一口二口と酒を飲み干した
***
意識がふわふわとし始めてきた頃、おしゃべりに夢中だった後輩達が思い出したかのように私の恋人について聞いてきた
「ぶっきらぼうだけど優しくてぇ、私が甘えても嫌な顔しない所か抱きしめてくれるし、私を家政婦みたいに扱わないし夜眠る時抱きしめてくれるのぉ」
「先輩が今まで如何に碌でもない男と付き合って来たかがわかる説明ありがとうございます」
「でも素敵な人ですね!何されてる方なんてすか?」
「魔法騎士団の人だよ」
その言葉に皆色めきだってあの人だ!と思い思いの男性の名前をあげるが一向にジャックの名前は上がってこない
私が答えを言おうとしてもここまで来たら当てたいとジャックの名前を言うのを阻止される
「ヒントはねぇ、ここにいる人だよぉ」
「ええ!?嘘!!」
「でもここにいる魔法騎士団員って!!」
キャーキャー騒ぐ後輩達を横目にビールを飲む
あの人ですか?この人ですか?と聞いてくる人達が全く見当違いで「団長なんだよぉ」と間延びした声で言うと綺麗に動きが止まった
「団長、で、ここにいるのって・・・」
「の、ノゼル様ですか!?フエゴレオン様ですか!?」
「え?」
「さすがアリシア先輩!!今までの男運のなさはこの日のために溜め込んでいたんですね!!」
違う、全く違う
キャーキャー騒ぐ後輩達にそう言って持っていたグラスをテーブルに置いた
「最大のヒントあげるからみててねぇ」
ふらりと立ち上がり団長達の、ジャックのいるカウンター席へ向かう
私が近づいてくることに気づいたらヤミ団長がジャックの肩を叩いているのがわかる
私はジャックが振り返る前に抱きついた
「どうしたんだ?」
「ふふふー、最大のヒントはねぇ、今ねぇ、ギューってしてる人だよぉ」
「は?ヒント?」
勿論なんのヒントなのかジャックが分かるはずかない
困惑する団長達と顔を青ざめる後輩達
そう、私は久々に酔いに酔いまくっているのだ
普段だったら絶対しないだろうが、人前で抱きつき擦り寄るという行動にジャックも驚き固まっている
固まっていることをいい事に腕を首に回したままくるりとジャックの膝の上に乗って答えはまだかまだかとニコニコと後輩達を見るが言葉を何も発しない事にどんどん私の機嫌が悪くなっていく
さらにジャックが腕を回してくれない事にも不機嫌になりつんつんとジャックの頬をつつきながら後輩達をみた
「今つんつんしてる人が私の大好きな人だよぉ」
「っ、お、おい」
「なぁにぃ?ジャックー、あ、チューする?」
「するから帰ろう、呑みすぎだ」
「やらぁ、今日ジャックと全然一緒にいないもん!一緒のお店にいるのに寂しいもん!!」
「おいヤミ!これはどうするのが正解だ!!」
「ヤミじゃないもん!」
「お前はちょっと黙ってろ!!」
口をジャックの手で塞がれそれが嫌でペロリと掌を舐めてみた
ヤミ団長と話していたジャックは驚き変な悲鳴と共に手の力を弱める
弱まった手を掴みペロペロとジャックの指を舐めた
「私がいるんだから他の人見ないで」
ジャックの手を両手で包み、包みきらなかった指を私の頬に寄せる
ジャックは倒れた
「おいジャック!気を確かにしろ!!」
「ジャックおやすみなさいなの?」
「おい待てこれ息してるか!?っておい何してんだお前はぁ!!」
「おやすみなさいのチュー」
「ジャック起きろ!!くっ、おいそこの翠緑の団員達!この女をどうにかしろ!!」
「先輩が、団長と・・・?」
「嘘だ、嘘だ・・・」
「これはもう、団長を抹殺・・・謀反・・・」
「フエゴレオンダメだ!!コイツら謀反企ててやがる!!」
「床で寝るな!ジャックは生きろ!!目を覚ませ!!」
結局その後直ぐに目を覚ましたジャックがいまだ酔っている私を抱えあげ無表情で帰ると言ったのでお開きとなったのだが
その後と言うとヤミ団長がフエゴレオン団長とノゼル団長に私達の関係を説明してくれたらしい
その間後輩達を宥めてくれたようで謀反という言葉を聞いて戦闘態勢になったノゼル団長を止めるという大変な役目を受け持ってくれたそうだ
今度いい所のお酒を贈ろうと思う
息抜きにと呑みに来たはずの団長達はぐったりと無駄に疲れその日が終わる
翌日臨時の団長会議で集まった際ぐったりしている3人とは真逆で元気で肌にも心做しか艶のあるジャックが出てきたので総攻撃をくらったと語られた
因みに臨時の団長会議の内容は翠緑の蟷螂の人間が謀反を企てているという事を小耳に挟んだかららしい
私は丁重に否定してくれていることを願うばかりである
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