不穏が近づく

無駄に化粧を施され、無駄に豪華なドレスを着させられ、無駄に高そうなソファーに座らされる

数年ぶりに見た実父と義母は今まで見たことがない笑顔でニコニコと私の横に座っていた

ここは王族3家が住まう城の1つシルヴァ邸

何故ここに連れてこられたかと言うと色々訳があるのだ

この空気はまるでお見合いみたいだ、ととにかくここから抜け出そうと口を開く

前に扉がノックされ数人の使用人とノゼル様団長が入ってきた

ここでノゼル団長だけ、というのが気になる所だ

もし縁談の申し込みであればノゼル団長のお父上様もそこにおられるはず

これはあれか

この女好きにしていいから金を貸してくれってやつか

貴族とはいえ下流の身分である両親だ、やりかねない

ノゼル団長もそれが分かったらしい

気づけば使用人と私の両親を部屋から出し、二人きりになってしまった


「貴様、自分が今何をしているのかわかっているのか」

「えぇ、充分に」

「あの男も見る目が無いな」


あの男、とはジャックの事だろう

魔法騎士団員が一般人に魔道具を使ったとはいえ簡単に拘束され意識のないままこの場に連れてこられたのだ

情けない限りである

そもそも今日はジャックと出かける予定だったのにまた色んなところを探されてるのではと心配だ

本当に情けない


「今回の件、親になんと言われたのか分かりませんがなかったことにして頂けないでしょうな」

「ほう?」

「情けない話ですが私の力不足でこうなってしまったので全面的にこちらが悪いことにして構いません」

「己の為に家を捨てる、と?」

「家も何も私の家は彼のいるあの部屋だけで、もうあの者達とは縁は切っております、そもそも切ったのはあっちなので私はこの場に大人しくいる義理もないのですよ」

「・・・ほう?」

「まぁ、色々面倒な事情があるので省きますけれど」


とにかくもう帰りたい

どうせあのろくでなし達は今別の部屋で待機しているのだから今のうちにとっととずらかりたい

ノゼル団長も恐らくあの一件で私とジャックの仲は察して頂いているはずだ

不服だが事情をもう少し詳しく話して帰らせて貰おう


「ノゼル団長、どうか私を・・・」


私を抱いてください

そう口にしそうになった事に驚き口を閉じる

閉じても尚言葉を出そうと開こうとする口に力を入れた

このままではジャックを裏切ってしまうのでは

心にも思ってない言葉を言う前にいっそ・・・


「おい、どうした?・・・!?回復魔道士を呼べ!!」


無礼を承知で私は自分の舌を思い切り噛み切った

***

あまりの痛さに意識を失ったらしい

目を覚ますと怒った表情のジャックが目に入って思いっきり目を閉じる

バッチリ目が合ったので思い切り鼻を摘まれた


「ノゼルとお見合いたぁいいご身分だなぁ?」

「あれやっぱりお見合いだったんですか?あの人達が金欲しさに私を売っただけじゃないんですか?」

「何も知らされてねぇのかよ」

「アンタとお出かけだって浮き足立ってたら魔道具で意識消えました」

「・・・」


大きなため息が2つ聞こえた

ジャックの後ろを覗くとノゼル団長が立っていて慌てて体を起こした


「ノゼル団長っ、申し訳ございません、あのような場でなんとも失礼な事を」

「構わない、貴様の不可解な行動の理由はこれだな」


キラリとノゼル団長の手の中で光った紫に輝くピアスに身に覚えが無く首を傾げる

私の耳に着いていたらしいが全く身に覚えがない

話によると女を男に売るために操作させる魔道具というなんとも気色の悪いものだった


「変なこと口走りそうになって慌てて舌を噛んだんです、舌切った所で死なないですからね」

「もっと穏やかにできねぇのかよ」

「何処ぞの団長の影響でしょうかね」


ぐっ、と押し黙ったジャックの横に立ちふらつく体を無理やり真っ直ぐにさせながらノゼル団長に頭を下げる


「この度は本当に申し訳ございませんでした」

「・・・今巷で騒がれている魔道具だ」

「え?」

「力を入れることが困難になり、最終的には相手に支配されるようになる・・・貴様の親は今事情聴取を受けている」


証拠品として魔道具は押収されるらしい

元々私のものでも無いので二つ返事でノゼル団長に渡すと後日私にも話を聞きに行く事になると言われた

縁は切っているとはいえ親は親

疑われるのは仕方ない

今になって感覚が戻ってきたのか無理やり空けられたらしい耳の穴が疼く

舌は回復魔道士が治してくれたらしいが耳は気づかなかったようだ


「痛てぇのか?」


耳を撫でられピリッとした痛みに目を閉じる

この後の行動は何となくわかる

このままジャックの口が私の耳に近づいて・・・


「他所でやれ元平民」

「おーおー、おっかねぇなぁ」


ノゼル団長の水銀魔法出てきた槍がジャックの横スレスレを貫く

カカカと笑うジャックに腰を引かれて部屋の出口へ向かう


「うちのが迷惑かけたな」

「そんなことを言うくらいなら鎖にでも繋いでおけ」

「いい案だ」


物騒な会話の後本当に鎖を購入され暫くジャックと私の攻防が続くことになった

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