2022/07/18(Mon)
「あー……いい加減泣き止んでくれないっスか?」「だって、こんなに痛そうなのに……」
スラム街で生きていれば殴り合い取っ組み合いの喧嘩なんて日常茶飯事だ。物心ついた時から変わらない生活。だと言うのにこいつはオレが少しでも怪我をして家に戻ってくれば顔を真っ青にして飛んできた。そして怪我した箇所を擦ってはポロポロととめどなく涙を零す。ばあちゃんも小さい頃は一緒に慰めたりもしてくれていたけど、毎度のように泣くこいつにとうとう諦めて最近は声をかけることすらしなくなってしまった。今日も泣いている原因がオレの怪我だと理解すればすぐキッチンに消えてゆく。
「別に大したことないッスから。ちょっと逃げる時に失敗しただけで」
怪我をすると泣かれるのが分かっていたから最近は上手くやっていたはずなのに今日はたまたまスリがバレて逃げている最中に相手が投げた何かが額に当たってしまった。無事に逃げ切ることには成功したが、おかげで大事な一張羅は見事に血だらけ。今も額からは真っ赤な線が頬を流れている。だから余計に驚かせてしまったのだろう。
「怪我しないようにね、って今朝も言ったのに」
「そうだっけ?」
「そうだよ」
毎日言ってる。
そう言って、部屋の奥から持ってきた濡らした布を額に当てられる。ぴりっと傷口が痛んで僅かに顔を歪めれば「ほら、やっぱり痛いんでしょっ」とまた瞳を滲ませた。
「やだやだラギー死んじゃやだよお」
「これぐらいじゃ死なないッスから」
昔からこいつは怪我に人一倍敏感だった。それは幼い頃に傷口から入り込んだウイルスによって命を落とした両親の記憶が朧気に残っているからなのかもしれない。子どものように泣きじゃくるこいつの目元をオレは血で汚れていない服の裾でごしごしと涙を拭う。「毎回毎回泣いて飽きない?」呆れたように尋ねるオレにこいつは毎回決まって同じ言葉を返すのだ。
「ラギーが痛くても泣かないから代わりに泣いてるの」
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君の代わりに泣いてあげる。 twst/ラギー・ブッチ
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