SS部屋


リハビリも兼ねて気まぐれに更新します。800字/ジャンル雑多。
タイトルは診断メーカー『お題ひねりだしてみた。』様より。

2023/05/04(Thu)

 グリムと夕食を食べ終えて談話室でのんびりしてたら玄関のベルが鳴った。こんな時間に誰だろう。ガチャリとドアを開けると目の前にいきなり紫の花束飛び込んできて目を丸くする。
「シシシッ、驚きました?」
 花束の横からひょっこりと顔を出すラギー先輩。今日はバイトって聞いてたから会えて嬉しいなあ。
 いやいや、そんなことよりも。
「どうしたんですか、これ?」
 私が視線を向けたのはラギー先輩の手に持った花束。なんとなくラギー先輩に花のイメージはあんまりない。
「バイト先でもらったんスよ。良かったらもらってくれない?」
「もらえるのは嬉しいですけど……ラギー先輩はいらないんですか?」
「オレ、食えないものに興味ないんで。いらなかったら捨てていいから」
「いります! 捨てません!」
 せっかく大好きなラギー先輩がくれたものを捨てるなんてできるわけがないじゃないか。食い気味で欲しいと伝えるとラギー先輩は苦笑いしながら花束を渡してくれた。紫のひらひらした花弁が可愛らしい花だった。
 やったあ、ラギー先輩からのプレゼントだ。どこに飾ろうかな。嬉しくてにこにこしていると不意にラギー先輩に名前を呼ばれて顔を上げる。
「あのさ、監督生くんって花言葉とか詳しい?」
「花言葉ですか? 多少は知ってますけど……」
 じゃあ、こっちの世界にも花言葉ってあるんだ。知らなかった。
「この花にも花言葉があるんですか」
「……調べてみたらいいんじゃない」
「?」
 自分から聞いたくせに言葉を濁すラギー先輩。不思議に思ったけれど私は素直に頷いて家に戻った。
 次の日、早速私は図書館で図鑑を借りて花を調べた。
(ええと、花の名前はペチュニア……花言葉は、)
 図鑑に書かれた文字を指でなぞり私はじわじわと頬に熱が集まるのを感じた。バイト先で貰ったとか絶対嘘じゃん。ほんとラギー先輩のこういうところずるいよなぁ。
 私は机に突っ伏して悶絶するしかなかった。
 花言葉:あなたと一緒なら心が和らぐ。
花言葉なんて貴方は知らないんでしょうね twst/ラギー・ブッチ

2023/05/03(Wed)

 いつもの下町の見回りを終えた帰り道、水道魔導器の近くでうずくまる幼馴染の姿を見つけた。少しでも騎士っぽく見えるようにと、ある日ばっさり切ってしまった長い髪。下町では珍しく蝶よ花よと育ててきたからかじいさんたちも突然の変貌にかなり驚いていた。
 そういや今日は騎士団の入団試験だって言ってたな。朝から緊張した面持ちで城へ向かっていく背中を思い出す。
 ……まあ、結果はこいつの様子を見るに一目瞭然だが。
「お疲れさん。入団試験、どうだった?」
「……また落ちた」
 小さく呟いたかと思うと勢いよく立ち上がったこいつは眦を吊り上げて詰め寄ってくる。いくら女らしく可愛がってきたとしても結局は下町育ち。本質はオレらと変わらない。今にも噛みついてきそうな勢いで口を開いた。
「こんなに落とされるのおかしくない!? 今回は試験の途中で喧嘩もしなかったんだよ!」
「普通は試験の途中で喧嘩はしねえんだよ……」
「あれは貴族のやつらに下町を馬鹿にされたからでっ! 実技だってそこそこいいところまでいったのに。それなのになんで私は騎士団に入れないの?」
「……それは、」
「教えてよユーリ。私に何が足りないの?」
「それなら逆に聞くけどどうして君はそこまでして騎士団に入りたいんだい?」
 背後から聞こえたフレンの声にこいつは驚いたように肩を震わせる。おそらくこいつの様子を見に来たんだろうが相変わらず厄介な聞き方をする。
 フレンの問いかけにこいつは何も答えない。フレンの力になりたいから、なんて言えるわけがなかった。
「それが答えられないなら君はずっと騎士団には入れないよ」
 オレは知っている。実力も器量もあるこいつが騎士団に入れないのはフレンが一枚噛んでいるからだ。
絶対に騎士団に入りたいこいつと絶対に騎士団に入れたくないフレン。さっさと本音を言ってしまえばいいのに本当に面倒奴らだなと常々思う。
 幼い頃からずっとこいつらは面倒な幼馴染の関係を貫いている。
めんどくさいひとたち TOV/フレン・シーフォ

2023/05/02(Tue)

 私と清光の付き合いは長い。どれくらい長いかと言うと私が赤ちゃんの時からの付き合いだ。元々この本丸の審神者だったおばあちゃんがよく私を連れてきてくれて遊び相手になってくれたのが清光だった。今になって考えてみれば私を審神者にしたかったおばあちゃんの思惑だったのだろう。審神者の適性試験を突破した私がおばあちゃんの本丸を引き継ぐのは自然な流れだった。私としても新しい初期刀を迎えて一から本丸を作り上げるより仲の良かった清光やみんなと一緒に頑張る方がずっと良いと思った。
「主ー俺出陣してくるから」
「えっ、もうそんな時間!?」
 山積みになった書類と睨めっこしていたら襖が開いて清光がひょっこりと顔を出した。何枚か書類を机から落っことして私は慌てて清光に駆け寄る。
 本丸の歴史が長いとはいえ審神者になってからはまだまだ日の浅い私。そのせいもあり時の政府からおりてくる任務もまだ難易度の低いものばかりで、清光は一人で出陣することを買って出た。「主は早く本丸のこと覚えてよね」なんて笑って。審神者の仕事はともかく本丸のみんなの名前なんてずっと昔から知ってるのに。
 乱れた髪を手短に整えて私は小指を差し出す。それは幼い頃からやっている習慣みたいなものだった。
「いってらっしゃい、清光」
 昔、清光が出陣先から傷だらけで帰ってきたことがある。当時の私にはそれがあまりにも衝撃的でおばあちゃんに泣きついた。清光が死んじゃうと思ったから。そしたらおばあちゃんに言われたのだ。
「それなら今度から清光と約束したらどうかしら?」
 怪我しないで帰ってきてね。
 約束すればきっと清光は元気に帰ってきてくれる。単純だった私は清光が出陣するたびに指切りをするようになった。そうすると不思議と清光が怪我する機会が減ったような気がしたから。本当に、小さなおまじないのようなものだ。
 清光は少し呆れたような、それでも嬉しそうな顔で小指を絡めた。
「任せてよ、主」
絡んだ小指だけが、証拠 tkrb/加州清光

2022/08/24(Wed)

(やってしまった)
 久しぶりに野宿生活から解放されて気を抜いてしまったのだろう。宿屋でエステルちゃんに買い物を頼まれて特に何も考えずに承諾してしまった。
「ありがとうございます! これ、買い物のリストです」
 そう言って渡されたのは文字の書かれた一枚の紙とガルドの入った財布。あ、と思った時には既に遅い。わたしは街の真ん中で立ち往生していた。
(文字読めないんだった……)
 異なる世界からやってきたわたしはこの世界の文字が読めない。おかげでせっかくエステルちゃんが渡してくれた紙はただの紙切れと化してしまった。せめて口頭で何を買えばいいのか伝えてもらえば良かった、と途方に暮れていると手の中にあったはずの紙が消える。えっ、と驚く間もなく頭上から聞き慣れた声が降ってきた。
「買い出しか?」
「ユーリさん」
 確かユーリさんはラピードと一緒に街の情報集めに行くと言って宿屋を出ていったのはわたしが出かける少し前のこと。もう情報収集は済んだのだろうか。
 ぽかんと見上げるわたしを余所にユーリさんは紙とわたしを見比べると「読めるのか?」と尋ねてくる。彼は唯一、わたしが文字を読めないことを知っている。ふるふると首を横に振って簡単に事のあらましを説明すると「なるほどな」と小さく呟いた。相変わらずユーリさんの状況把握は早い。そのまま買い物を手伝ってくれることになりわたしはホッと安堵の息を吐いた。良かった、これで確実に買い物していける。
「そういえばラピードはいないんですか?」
 きょろきょろと辺りを見渡すがラピードの姿は見当たらない。ユーリさんは隣を歩くわたしを一瞬だけ見下ろすと再び視線を前に戻した。
「ま、たまには二人だけってのも悪くないだろ」
「? そうですね……?」
 まあ、ラピードにはラピードの用事があるのだろう。わたしは特に疑問を持たずにユーリさんの背中を追いかけた。
 ――わたしたちの背後にいた宿屋へ帰るラピードの存在に気づかずに。
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二人っきりでいたかった、 TOV/ユーリ・ローウェル

2022/08/21(Sun)

「いいよ清光。そこまでやらなくても」
「だーめ。身だしなみは大事だっていつも言ってるでしょ」
 そう言って主の手を引くと分かりやすく口をへの字に曲げる。どちらかと言えばおしゃれには無頓着な主。「面倒」と顔に書いてあるのがありありと分かったけれど、俺が全く手を離さなかったのを見て渋々手の甲を差し出した。俺はにっこりと笑みを浮かべてポケットから愛用のネイルを取り出す。色は勿論、赤。
 主の細い指にそっと手を添えて薄桃色の爪に真っ赤なネイルを塗っていく。俺の爪とおんなじ色。片手を塗り終わったところで主の声が俯いた頭上に振ってくる。
「たかだか審神者同士の定例報告会だよ。そこまで気にしなくて思うんだけど」
「……じゃあ、これはおまじない」
「おまじない?」
「そ、主が無事に報告会終わらせられますようにって」
 定例報告会に俺たち刀剣男士は参加出来ない。だからそこでどんなことが行われているのかはさっぱり分からないけれど、政府から通達が来ると主の顔が強張るのを俺は知っている。そして報告会から本丸に戻ってきた夜、ひとり布団の中で嗚咽を呑み込んで涙を流しているのを知っている。まあ、主は俺たちに気づかれないようにしているつもりなんだろうけれど。
 だから、これはおまじない。今度は主が泣かずにいられますようにって。俺がついてるから負けないでって。
「報告会頑張ってね、主」
 きょとんとした顔で瞳を何度か瞬かせた主はやがて目尻を下げてくしゃりと笑った。
「ほんと清光には敵わないなあ」
 ……なーんて、そんなの都合の良い口実に過ぎない。
 その報告会に主を狙ってる男がいるかもしれないでしょ。だから牽制してるの。主は俺のだよって。
けど、そんなこと言ったらきっと主は困った顔をするだろうから言わない。あーあ、早く主が俺の気持ちに気づいてくれたらいいのに。
 そんな俺の気持ちも知らずに主は真っ赤に染まった自分の爪を見て「ありがと、清光」と微笑むのだ。
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いい加減思い知ればいいのに、 tkrb/加州清光

2022/07/30(Sat)

「もしも、私が貴族の生まれではなかったとしたら……それでもフレン様は私と婚約してくださいましたか?」
 顔色を伺うのは怖くてできなかった。今の環境でも私は十分満足した生活を送らせてもらっているというのにこんなことを聞くのは我儘だから。
 所詮、親が決めた政略結婚というものだった。騎士団長の嫁が私に務まるとは到底思えなかったけれどここまで育ててくれた両親の為にも自分が出来るのはこれくらいだと思ったから婚約を決めた。私は今のフレン様との関係に不満はないし、むしろ満足している。きっとお仕事でお疲れなのにフレン様は忙しい合間を縫って私に会いに来てくれる。つまらないであろう私の話も真摯に聞いてくれて、私がフレン様のお仕事について尋ねれば丁寧に答えてくれる。そんなささやかな時間が私は好きだった。
 けれど、どうしても時々不安になってしまう。今の関係に満足しているのは私だけで本当はフレン様は嫌なんじゃないだろうか。親の勢いに圧されて本人が望んだ結婚ではないのではないだろうか。フレン様が嫌ではないか、ただそれだけが心配だった。
「……どうすれば伝わるんだろう」
 ぽつりと小さく呟いたフレン様はおもむろに私の手を取る。するするとシルクの手袋を外されたかと思ってきょとんとしていたら手の甲にキスをされた。突然のことに驚いて固まる私に手を握ったままフレン様は視線を持ち上げる。前髪からのぞく碧眼がまっすぐ私を射貫いた。
「貴族だから平民だからとかじゃない、他でもない君だから一緒になりたいんだ。本当は――今すぐにでも君の心も身体も僕のものにしたい」
 でも、まだ婚約期間だからここまで。
 そう言ってフレン様は言葉を失う私の頬にキスをした。なんだか信じられないような発言を聞いたような気がする。けれど耳に残ったリップ音が、頬に残ったぬくもりがこれは現実だと教えてくれている。
 みるみる内に真っ赤に染まる私にフレン様は満足げに微笑んだ。
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例えばの話をしてみようか。 TOV/フレン・シーフォ

2022/07/24(Sun)

「僕のお嫁さんがこんなに可愛いのは当たり前じゃないですか」
 ね? と若干の甘さすら含んだ声が耳にかかり息をのむ。蘭ちゃんや園子ちゃんが瞳を丸くして驚愕の声を上げる向かいの席で私は降谷さんを肩越しに見上げながら内心だらだらと冷や汗をかいていた。
(その設定聞いてないけど……!?)
 事前に聞かされた私の設定は"米花町を駆け回る新聞記者"だったはずだ。眠気と必死に戦いながら頭に叩き込んだ資料にも"安室透の嫁"なんて情報はどこにも書かいてなかったはず。何考えてんだこの上司。
 肩に乗せられた手が僅かに強くなる。話をあわせろと言っているのだろう。確かにここで迂闊な反応をしてしまえば絶対に怪しまれる。現に蘭ちゃんの隣に座っている眼鏡の少年には物凄い訝しげな視線を送られているのだから。私は瞬時にはにかんだ笑みを浮かべ「恥ずかしいですよ、透さん」と視線を下に向ける。探偵兼アルバイターの男の嫁なんて現実なら死んでも御免だ。
 幸いにも私たちの演技は疑われることなくそのまま二人でポアロを後にした。一緒に車に乗り込んだところで私はようやくため込んでいた息を吐きだす。そして素知らぬ顔でエンジンを入れる降谷さんをジトリと睨みつけた。
「降谷さんいきなり設定作るの止めてもらえませんか? それか事前に言ってください」
「常に不測の事態に備えろと言っているだろう」
 先程の甘ったるい声とはうってかわって冷たい声にうぐっと私は喉を詰まらせる。そう言われてしまうとぐうの音もでない。迂闊な言動が命に係わる、それが今の私の仕事なのだ。きっとあの発言も何か意味があったのだろう。「すみません」と口を開きかけたその時、アクセルを踏んだ降谷さんの口元が僅かに緩まる。
「まあ、僕的には君が本当のお嫁さんになってくれても構わないけれど」
 それは安室透としてなのか降谷零としてなのか。本気なのか冗談なのか分からない上司に私は乾いた笑みを浮かべるしかなかった。
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うちの嫁がこんなに可愛いのは当たり前。 DC/降谷零

2022/07/18(Mon)

「あー……いい加減泣き止んでくれないっスか?」
「だって、こんなに痛そうなのに……」
 スラム街で生きていれば殴り合い取っ組み合いの喧嘩なんて日常茶飯事だ。物心ついた時から変わらない生活。だと言うのにこいつはオレが少しでも怪我をして家に戻ってくれば顔を真っ青にして飛んできた。そして怪我した箇所を擦ってはポロポロととめどなく涙を零す。ばあちゃんも小さい頃は一緒に慰めたりもしてくれていたけど、毎度のように泣くこいつにとうとう諦めて最近は声をかけることすらしなくなってしまった。今日も泣いている原因がオレの怪我だと理解すればすぐキッチンに消えてゆく。
「別に大したことないッスから。ちょっと逃げる時に失敗しただけで」
 怪我をすると泣かれるのが分かっていたから最近は上手くやっていたはずなのに今日はたまたまスリがバレて逃げている最中に相手が投げた何かが額に当たってしまった。無事に逃げ切ることには成功したが、おかげで大事な一張羅は見事に血だらけ。今も額からは真っ赤な線が頬を流れている。だから余計に驚かせてしまったのだろう。
「怪我しないようにね、って今朝も言ったのに」
「そうだっけ?」
「そうだよ」
 毎日言ってる。
 そう言って、部屋の奥から持ってきた濡らした布を額に当てられる。ぴりっと傷口が痛んで僅かに顔を歪めれば「ほら、やっぱり痛いんでしょっ」とまた瞳を滲ませた。
「やだやだラギー死んじゃやだよお」
「これぐらいじゃ死なないッスから」
 昔からこいつは怪我に人一倍敏感だった。それは幼い頃に傷口から入り込んだウイルスによって命を落とした両親の記憶が朧気に残っているからなのかもしれない。子どものように泣きじゃくるこいつの目元をオレは血で汚れていない服の裾でごしごしと涙を拭う。「毎回毎回泣いて飽きない?」呆れたように尋ねるオレにこいつは毎回決まって同じ言葉を返すのだ。
「ラギーが痛くても泣かないから代わりに泣いてるの」
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君の代わりに泣いてあげる。 twst/ラギー・ブッチ
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