きらびやかなかけら

 旅を続けているとどうしても宿が見つからなくて野宿の日が発生する。そんな日は交代制で料理を作るのが自然とわたしたちの決まりになっていた。メニューに関して特別な決まりはなく完全に作り手任せ。そのため料理の個性がとてもでやすい。例えばユーリさんが料理担当の日はデザートが良く出るし、手先が器用なカロルくんの日はオムライスにケチャップで可愛いイラストを描いてくれる。ジュディスさんが作ったものは大抵おいしい。彼らに比べたらわたしの作る料理は簡単でシンプル。家でも休日はたまにご飯も作ったりしていたけれど決して得意というわけでもなかった。
 そんなわたしだから自分が料理担当になるといつも頭を悩ませることになる。

(うーん……どうしよう)

 目の前にずらりと並べられた食材たちを見てわたしは思考を巡らせていた。
 豚肉、鶏肉、牛肉、玉ねぎ、しいたけ、人参、卵、キャベツ、豆腐、それにお米とパン。ちなみにやたら肉類が多いのは先日ユーリさんとレイヴンさんでどちらがより多くの魔物を狩れるか競走した結果らしい。豆腐はそろそろ使い切った方が良いとジュディスさんに言われているのでみそ汁にしようと思っていたんだけど、肝心のメインが決まらない。
 牛肉がたくさん余ってるから牛丼とか? でも、それは前回の野宿で食べたような……。みんな優しいから同じ料理が出ても何も言わずに食べてくれる気はするけれど同じものをだすというのもなんとなく気が進まない。かと言って代わりのメニューが思い浮かぶわけでもなくわたしはひっそり眉間に皺を寄せる。
 こんな時レシピ本でもあったらいいのにな。せめてイラストが描いてある本だったら文字が読めなくても参考になるのに。食材たちを眺めていても全然いいメニューが思いつかなくてうんうんと一人で唸っているとひょっこりと背後からエステルちゃんが顔を覗かせた。

「今日はアズサが料理担当なんですね!」

 楽しみです、とにこにこ笑みを浮かべるエステルちゃん。なんでもわたしの作る料理はお城では食べたことのないものばかりらしくて新鮮なんだとか。この前も鶏肉のからあげを作ったらものすごい感動していたのは記憶に新しい。この世界でからあげはあまり馴染みのない料理っぽかったから少し作るのを躊躇っていたんだけど、どうしてもわたしが食べたくなってしまって作ったのだ。ちょうど材料も揃っていたし。
 エステルちゃんがキラキラと瞳を輝かせながらナイフとフォーク使って食べていた光景はなんだか可愛らしかった。

「もう作るものは決まったんですか?」
「ううん。何作ろうかなって考えてたところ」

 幸いにもこの世界で料理の文化の違いはそれほど大きくはなくわたしの作った料理が否定されたことはない。エステルちゃんたちが作ってくれる料理もサンドイッチやカレー、ハンバーグといった慣れ親しんだものが多かった。流石はゲームの世界といったところだろう。
 わたしはエステルちゃんに視線を移して小首を傾げる。

「エステルちゃんは何か食べたいものとかある?」
「アズサの作ってくれるご飯はなんでも美味しいのでなんでも嬉しいです」

 エステルちゃんの屈託のない笑みで言われてしまうとわたしも苦い笑みしか返せない。うーん、そう言われてしまうと逆にプレッシャーだ。
 笑みを作ったまま固まるわたしを見て不思議そうな顔をしたエステルちゃんは何かを思い出したかのように「あっ」と声を上げた。

「私、お城だとパンを食べることが多かったのでご飯を食べるメニューだと嬉しいです。この前アズサが作ってくれたからあげ? はご飯にピッタリでした!」
「そんなにからあげ気に入ってくれたんだ。良かった」
「はい! 本当においしかったです!」

 よっぽどからあげがお気に召したのだろう。うんうんと首を縦に大きく振るエステルちゃんを見ているとわたしも嬉しい気持ちになる。
 それにしても、お米を使った料理か……。わたしは再び食材を眺めてたまたま目に留まった卵を手に取った。そう言えば卵って最近食べてないな。ちょうど玉ねぎも鶏肉もあるし親子丼なんてどうだろう。ついでだから人参としいたけも入れたら具だくさんの親子丼になる。それと豆腐とキャベツでみそ汁作って……うん、いいんじゃないか。これならわたしでも作れそう。
 わたしは確認の意味も込めてエステルちゃんに問いかける。

「エステルちゃん、親子丼って知ってる?」
「おやこ……ですか?」

 きょとんと瞳を丸くするエステルちゃんを見る限りこの世界では一般的に知られている料理ではないみたいだ。それでも牛丼は食べる文化があるのだから親子丼を出してもそれほど問題はないだろう。よし決めた、今日は親子丼にしよう。
 作る料理が決まってしまえば後は行動あるのみ。黙々と野菜を切り出したわたしをエステルちゃんが不思議そうに覗き込む。

「今日はそのおやこ、どん? という料理に決めたんですか?」
「うん。材料が揃ってるからそうしようかなと思って」
「そうなんですね。アズサの料理楽しみです」

 具材を切り、野菜と鶏肉を炒めてだし汁を加えて煮る。火が通ったら少し濃いめに味付けをして溶いた卵を半分だけ投入する。卵はまだ買ったばかりだったからせっかくなら半熟の親子丼がいい。卵に火が通ったら残りの半分を入れて火から離し、後は蓋をして予熱で火を通す。こうすると簡単に半熟っぽくなるのだと学校の授業で学んだ。
 しばらくしてから蓋を開ければ鶏肉と野菜がとろとろの卵に包まれている。うんうん、それなりにできたんじゃないだろうか。後は簡単にみそ汁を作ってそれぞれ人数分よそえば親子丼とみそ汁が完成した。
 ほかほかのお米に乗った光沢感のある卵と具材。おそらく半熟の卵にユーリさんたちはあまり親しみがなかったのだろう。出された瞬間の怪訝そうな顔はなかなか見者だった。でも、一口食べれば半熟卵の魅力にとりつかれたみたいで次々と箸を進めていく。自分でも味見をしてまずいとは思わなかったけどみんなの口に合うとは限らない。一種の賭けのようなものだったけれどユーリさんたちの口には合ったらしい。

「うまいな」
「アズサこれすっごいおいしい!」
「……まあまあね」
「素直じゃないのねリタは。その割には随分箸が進んでるようだけど」
「う、うっさい!」
「ワンッ!」
「ラピードもうまいって言ってる」
「ふふ、ありがとうラピード」

 わたしの作るご飯は簡単でシンプル。それでも頑張って作った料理を褒めてもらえるのはやっぱり嬉しい。
 こそばゆい気持ちでわたしも自分の作ったご飯を食べているとふとエステルちゃんの箸がほとんど進んでいないことに気が付く。もしかして口に合わなかったのだろうか。わたしは俯いたまま動かないエステルちゃんにおそるおそる問いかける。

「エステルちゃん、もしかして口に合わなかった? 嫌なら無理して食べなくても……」

 そこまで言ったところでわたしは口を閉ざす。唐突にエステルちゃんが立ち上がったかと思うと勢いよくわたしのところまで駆け寄ってきたからだ。

「エステルちゃん……?」

 戸惑いながら名前を呼ぶと彼女はスプーンを持っていたわたしの手をぐっと握り込む。そのままお人形のように整った顔が寄ってきたものだから思わず肩が跳ねた。

「とってもおいしいです! こんなおいしい卵料理初めて食べました。アズサは本当にお料理が上手ですね!」
「お、大げさだよ。それにわたし料理は全然得意な方じゃないし」
「そんなことないです! アズサの作った料理は食べると元気が出ます。本当においしいです!」

 ありがとう、と小さく返事をするとエステルちゃんはにっこり笑みを浮かべて満足そうに自分の席に戻って幸せそうに親子丼を頬張る。

(元気が出る……か)

 わたし自身、そんなに料理は得意な方だとは思っていないし特別好きというわけでもない。ほとんど料理初心者のようなわたしの料理を表裏のないエステルちゃんがおいしいと言って食べてくれる。それだけで自分の作った何気ない料理がなんだか誇らしいものに思えてじんわりと胸の中にぬくもりが広がっていく。戦いではいつもみんなの足手まといにしかならないけど、こういう場面だったらわたしでも役に立てることがあるみたいだ。
 次も頑張ろう。ひっそりと心の中で誓ったわたしは親子丼にようやく口をつけた。
 後日、何故かユーリさんたちの中でわたしが料理上手として認識され料理当番が増えてしまい毎回献立に頭を悩ませることになるのはまた別の話。


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