(2 / 13) 本編 (02)

はあああああ、と海よりも闇よりも深すぎる息を吐き出し、スティーブン……ではなく、レオナルドはソファの背もたれに力なくもたれる。
それは疲労ではない。
否…疲労は疲労だが、精神的な疲労だろう。
口を開けて呆けるレオナルドの口に誰かが思いっきりバーガーを突っ込む。
突然バーガーを突っ込まれレオナルドは『うぐっ』と声を零し慌てて体を起こし口に突っ込まれたバーガーを引っこ抜く。


「な、なにすんすか!!」

「てめェが呆けてるからだろうが」

「だからって何も人の口の中にツッコまないでくださいよ!!」


自分の口にバーガーを突っ込むなどという雑な扱いをするのは一人しかいない。
ザップである。
ザップをキッと睨むもザップは自分のバーガーを食べながら知らぬ顔でレオナルドの睨みを流す。
相変わらずな先輩にレオナルドは『ったく…』と不貞腐れたようにバーガーを見下ろし…溜息をついた。


「俺…何かしたのかな…」


思わずため息と共に言葉も漏れた。
その言葉にザップは呆れたような目をレオナルドに向け、向かいにいたツェッドは食べるのをやめ、レオナルドへ顔を上げる。


「さっきの人ですか?」


ツェッドの問いにレオナルドは頷く。
レオナルドはレンを思い出す。
あの時のレンは少し様子が可笑しくて気になった、というのもあった。


「あれ…お前ら外でランチじゃなかたっけ?」


レオナルドが頷いた後、扉が開きスティーブンがコーヒーを手に部屋に入って来た。
仲良し三人組がつい先ほど外にランチに向かったのを見送っていたスティーブンは用事で席を外し戻れば外にいるはずの三人がいるのについ零してしまう。
スティーブンはお昼はもう済み今は休憩なのか、そのままツェッドの隣に座り元気のないレオナルドに気付きコーヒーを飲みながらツェッドとザップを見た。


「どうしたの、それ」


それ、と言ってレオナルドに指さすスティーブンにザップとツェッドはお互い顔を見合わせた後両者レオナルドを見つめながらスティーブンに説明する。
その説明にスティーブンは険しい表情へと変える。


「"神々の義眼"狙いか?」

「さあ…それはなんとも…」

「なんかレオを狙ったっていうのも違うんすよね…なんていうか…反射攻撃って感じだった気が…」

「狙いが少年か、それとも物凄い警戒心の高い子か………でもまぁ…警戒して損はないだろ…少年、今すぐ家を移る……って…少年?」


狙いが『神々の義眼』か、それとも腹の虫の居所が悪かったのか、またまた隣人のレオナルドを不快に思っていたのかは分からないが、それでも襲われたというのを聞いて上司として、そしてレオナルドの希少を考えれば放っておくことはできない。
即刻引っ越しを提案しようとしたスティーブンだったが…レオナルドがブツブツ何かを言っているのに気づき言葉を止めた。
そんなレオナルドにザップとツェッドも気づいたのか、ザップは『おーい』と零しレオナルドの顔の前で手を振るが、効果はなかった。


「結構…レンちゃんとはいいお隣さんだったんですよね…あの子独り暮らししてて…まあこんなところにいるんだからなんか事情があるんだと思うんすけど…なんか…妹みたいに思ってて…ソニックとエミリアも仲が良かったから俺的にはレンちゃんとも仲がいいお隣さんと思ってたんすけどね……なんか、俺…やったかな…」


レンと自分の仲はレオナルド的に悪くはないと思った。
好きな子、というわけではないが、本当に妹のように思っていたのだ。
家に上がるような仲でもご飯を奢ったり一緒に出掛けるような仲でもなく、ただ会えば会話をする程度の仲だったが、殺されるような仲ではないと思っていたのだ。
…まあ、それは自分だけだったようだが…レオナルドは『俺、しつこく話しかけすぎたのかな…』と今までの自分を思い返してみる。


「…エミリア?」


あー、あー、と食べるものも食べず項垂れしょんぼりとさせるレオナルドにザップはもう構うのをやめ、人の良いツェッドは『そんな事ないですよレオ君』と慰めていた。
そんな中、スティーブンがふと声を零し、三人ともスティーブンへと目をやる。


「スティーブンさん?」

「ああ、いや…少し気になった名前があったからちょっとな……少年、君、今エミリアって言ったよな?」

「あ、はい」

「そのエミリアって…」

「エミリアはソニックと仲のいい犬ですけど…」

「いぬ…?」

「はい、犬です…多分雑種かな…見たことのない犬種だけど可愛いですよ?」

「……そうか…犬か…」

「はい…犬です…」


スティーブンはレオナルドから出た『エミリア』という名前が気になった。
珍しく言いよどむ上司に首を傾げながらレオナルドは『エミリア』が犬だと答える。
エミリアが犬だと知ったスティーブンは目を見張ったが、気が抜けたのか乾いた笑みを浮かべ何度も『そうか…犬か…』と呟く。
いつもの彼と全く違う様子に三人はお互い顔を見合わせた。
その時、スティーブンの携帯が鳴る。


「三人とも、仕事だ」


どうやら『血界の眷属』が出現したらしく、スティーブンはいつもの雰囲気に戻った。



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