澄みわたる空を翔るヤヤコマの群れ。街の片隅、じっとこちらを見つめるニャスパー。向こうでお世話になったであろう人たちの笑顔。なんて美しい風景。

ああ、やっぱり彼女の写真、好きだなぁ。
緩む口元を隠すことなく、ユウリは友人の投稿を遡る。いいね≠フハートを飛ばし、特に気に入った写真はリツイート≠タップ。
最新の投稿は写真だけをアップロードする彼女には珍しく、「これからガラルへ帰ります」と一言書き添えられ、ガラル地方行きの船とともに彼女の――まふゆの手持ちが写っている。

「『ガラルに帰る』か……」

その響きにとてつもなく嬉しくなるのは、まふゆの友人だからこその感情だ。そんなユウリを見透かしているのか、メッセージアプリに通知が入る。件の彼女だ。

『通知テロ』
『最近、辿れてなかったから! 許して!』
『手作りカレーで手を打ちます。久しぶりにユウリのカレー食べたい。それと、マンタインの群れに遭遇して、船が遅れているみたい。ごめんね』

ユウリはサングラスをずらし、時計を見る。どのくらい遅れるかわからないみたいだし(まふゆの性格上、時間がわかればちゃんと連絡してくる)、エネココアでも買ってここで待っていようかな。了解! とスタンプを送り、売店に足を向け――

「チャーンピオン」

呼ばれた名に肩が跳ねた。
あわてて後ろを振り向くと、見知らぬ男性。今日はプライベートだから変装してきたのに! 今まで見破られたのは仲のいい友人たちと、よく顔を合わせるリーグ関係者ぐらいで……。

もしかして、と思い当たり、じっと男性の顔を見る。脳内のデータベースと照らし合わせ、恐る恐る声をかけた。

「キバナ、さん?」
「おっ、気づくまで時間かかったな。この変装、これからも使うか」

ニヤリと笑うドラゴンストーム・キバナ。いつものユニフォーム姿とは打って変わった、きっちりとしたジャケット。シックに決めた装いに、変装用の大きめなサングラス。トレードマークのバンダナも外している。

確かに一見して、彼だとはわからない……かもしれない。いや、身長でバレそうな気がするな。大きいし。
ともあれ、彼もプライベートでここに来ているのだろう。ここまで徹底して変装するのも珍しい。どうして? と首を傾げる前に、答えが浮かぶ。

「……まふゆのお迎え、ですか?」
「ああ。今日帰ってくるって、ちょっとした伝手から聞いてな」

あいつ、オレには全然連絡よこさねぇし、とぼやくキバナにユウリはつい笑ってしまう。確かに、彼女のアカウントをフォローしているけれど、フォローバックはもらえていない。この様子だとメッセージアプリもつながっていなさそうだ。
しかし、困った。

「キバナさん来るなら、私、お邪魔ですね」
「は?」
「だって、まふゆにお返事するんでしょう?」
「…………」

バツの悪そうな表情を浮かべるキバナの耳は赤くなっている。わかりにくく照れているなぁ、とほくそ笑み、船に乗っている友人にエールを送る。
ちゃんと、気持ち伝わっているよ、と。

「そうだ。せっかくだからキバナさんから見たまふゆのこと、聞かせてくださいよ。船、遅れているみたいだし、時間はありますから!」
「え、遅れてんのか、船」
「さっき連絡きました」

ちょうどそのタイミングで待合室の電光掲示板に遅延情報が更新される。約1時間、理由は野生ポケモンの群れとの遭遇。

「まふゆと出会ったのはキバナさんの方が先ですし、そのときの様子聞きたいなーってずっとマリィと言っていたんです! エネココア、奢りますから!」

断られる前に大きな身体を無理矢理座らせる。待合室の椅子は小さいのか、彼は窮屈そうだが構うまい。
ボールからゴリランダーを出して見張りを頼む。
後ろから聞こえる避難の声を聞かない振りをして、改めて売店へ向かった。

「エネココア2つおねがいしまーす! 1つはホイップ追加で!」

そうオーダーしてから気づく。これから聞く彼の話はこのエネココアよりも甘いかもしれない。なら、甘さ控えめでオーダーすればよかったかな、なんて。

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