冬と言えば乾燥する季節なので、言わずもがな保湿は大事だ。青色の丸い缶の中に入っているハンドクリームを塗ろうと、指で掬うと思いのほか掬い取ってしまった。
 いや、でも手のひら全体に広げれば意外といけるかも。と広げるように塗るもやっぱり量が多いことには変わりなく、手が室内灯の光を受けてギラギラと光沢を出している。これはマズイ。

「彰ー」

「んー?」隣でくつろいで週バスを読んでいる恋人の名を呼べば間延びした返事が。

「ハンドクリーム塗りすぎたからあげる」

「それ結構保湿あるやつだろ?オレ今本読んでるんだけど」

「いいからはーやーくー」

 急かすとやれやれと困ったように笑いながら雑誌を机の上に置き、「はい」両手を私に差し出した。
 目の前に出された手を、まず包むようにして手のひらに余分に付いたハンドクリームを揉むようにして塗りつけていく。

 私が両手で挟んで包むようにしても全然足らないくらいに大きい手。私がやりたくてもできないアレ、バスケットボールを片手で持つことなんて造作もなくこなせるだろう。指も長くて少し関節が節榑立っている。この手であの観客を惹き付け、魅せているパスやシュートを決めているんだよなぁと感慨にふけると同時に、こうして好きなだけ触れていることに優越感があった。

「いつも思うけど爪短いよね」

 指先は乾燥しやすいからしっかり塗りこんでいるとふと気づいた。爪の白い部分がほぼ無く、あともう少しで深爪になるところまで切り込んでいる。これはこれ爪が当たらなくてクリームを塗るのが楽だけれど、ここまでくるとここまでくると痒いところがなかなか掻けなくて焦れったくなりそうでもある。

「練習とか試合してる時に相手に爪が当たって怪我させたくねーし、割れて痛むのも嫌だし」

「あそっか、たしかに」

「あと、」

 口元を緩ませ、ふんわりとした笑みを浮かべる。

「ごんべえが大切だから」

「?」

 私が大切だからと爪を短くすることがイマイチ結びつかない。手を繋ぐ際に当たるから?それにしたって切りすぎな気はするけれど。あれこれと考えてみるけれど思いつかないでいると、手の内にあった手がするりと逃げ今度は逆に手を握られる側になった。呆気ないくらいにあっさりと包まれ覆い隠され私の手なんて見えず、サイズの違いをまざまざと見せつけられた。

 手のひらを親指で程よい加減で指圧され、指を付け根から先まで流すように揉みほぐす動きを1本1本丹念にされる。手の甲は長い指の腹でなぞり撫であげられ、そのまま指の間を通り抜けた時はくすぐったくて少し笑いが出た。

 まるでマッサージを受けているようで気持ちよくて心地いい気分になる。彰の様子をじっと見ている内に考えが分かるかと思ったけれど、やっぱり分からないので素直に降参することにした。

「全然わかんないんだけど」

 彰は一笑すると、耳元に薄い唇を近づけ囁いた。

「えっちの時痛くさせたくないからね。気持ちよくなって欲しいからだよ」

 低い声が鼓膜を震わせ脳に伝え、言葉の意味をようやく理解した瞬間、顔に熱が集まった熱を感じつつ小さく「馬鹿」と呟くことしか出来なかった。目の前の男は相変わらず憎たらしいまでに優しく微笑んでいた。