「作戦通り、行くぞ」
「おう」
学園東側。森の広がるそのフィールドに今回の定期試験対象魔物、ドロンは解き放たれていた。定期試験用に教師が一定の範囲に結界を結んでいる。結界の鍵はドロン自身につけられているため、一定時間経つかドロンを倒さない限り結界の外には出られない。
準備出来次第、上空に打てと渡された色素弾をシュウが持ち、俺たちは結界の中に入っていた。ドロンの姿が中央に見えるところまで移動し、ドロンを挟むように対岸にいる。俺とシュウ、都子とフリートという組み合わせだ。簡易的な魔法アイテムを装着しているため、メンバー同士の声ははっきり聞こえる。
バン、と破裂音が鳴った。シュウが打ち上げた色素弾が空に展開する。音と同時に俺とフリートは木陰から飛び出した。
俺と他の三人は数日前、模擬戦闘を行なっている。都子の戦い方、シュウの戦い方、フリートの戦い方。全員が全員の戦い方を把握した上で改めて作戦を練った。まず、俺とフリートがドロンを挑発する。硬い装甲にダメージを与えつつ、まずは都子の魔法発動範囲まで連れてくる。そこまでが、第一フェーズだ。
「俺が背後に回る」
「オッケー!」
動きのシュミレーションはバッチリだった。もとより、このチームはバランスがいい。支援を得意とする頭脳派が二人、特攻を得意とする脳筋派が二人。火力も十分、足りている。俺の持っている鉄パイプにはあらかじめシュウから木の属性付与がなされており、一度殴ればかなりのダメージを与えられていた。元から木属性であるフリートの素手攻撃にも多少の魔力を込めればダメージは出る。フリートがドロンの正面を軽快に飛び回り、俺は背後から徐々にダメージを叩き込んで行った。
予想通りドロンの動きは鈍い。しかし、振り下ろされた拳やその巨体の破壊力は破格だった。一度当たれば戦闘不能とまではいかないものの、再起動までに時間はかかるだろう。何としてでも接触は避けなくてはならない。
都子が身を潜めている木陰まで十数メートルというところまで来た。都子の特殊な植物を使った魔法は範囲をいくらでも広げらるが効果に差が出る。そして何よりも、味方にかかる可能性もあるのだ。都子の凝縮した魔法で一度ドロンの動きを止め、そこから一斉に殴りかかる。そういう手筈になっている。
「都子、そろそろ!」
「準備はできてるよ」
鉄パイプをバットのように構え、思い切りドロンの後頭部にフルスイングした。それを皮切りにフリートが高く飛び上がり、ポニモッツをバネにして木の枝の上に登った。ドロンは突如消えたフリートの姿を探しながら、その場でオロオロと周りを見ている。
「今!」
「はい!」
フルスイングの反動で少し後ろに下がっていた俺はそのままさらに後退する。その日の都子の調子によって魔法の良し悪しは変わってくるのだという。あの魔法は確かに強力だ。またかかってしまっては世話にならない。シュウのいる場所まで下がり、様子を見る。都子に何かあった時はすぐに駆けつけられるよう、近辺にはフリートが移動しているはずだ。
うっすらと霧のような何かがドロンを包み込んだ。数秒後、ドロンの動きがおかしくなる。作戦会議のことを思い出していた。ドロンはその巨体と怪力故、動くだけで破壊力が生まれる。それならば動かさなければいい、のだが、あれだけの巨体をとどめておくための魔力は四人で賄えるほどのものではない。ではどうすればいいのか? 四人が出した答えは簡単だった。
視力を奪えばいい、と。
「シュウ、できてるか」
「ああ、ほら。……次はカウントで発動する」
「サンキュ。行くぜ?」
鉄パイプを左手に持ち替えた。渡された”それ”を右手に持ち、構える。脚力だけで枝の上に飛び上がり、次の合図を待った。シュウの声が耳元に響く。
「3」
都子の毒の霧が徐々に晴れる。ドロンの姿がより克明に映った。対岸にいるフリートの姿を捉え、目を合わせて頷く。
「2、1」
ぎゅ、と右手を握り直した。俺の手のひらにちょうどフィットする"それ"はシュウが潜んでいる間に即席で作ったものだ。これも作戦の一つ。ドロンが長いことこの結界の中にいるということは、ここの土地が体に合い始めているということだ。だからこそ。
「ゼロ」
「ヤァッ」
跳躍。正面から来るフリートと、俺の右手に握られた木製の剣は綺麗な軌道を描いてドロンへ向かって行く。ゴゴゴゴという地鳴りを伴い、ドロンの足元からは周辺の木の根が突き出た。それはちょうどドロンの真下から突き上がり、その巨体に刺さって行く。横から伸びた蔦はドロンの足を拘束した。俺の剣先がドロンの背後からちょうど背中あたりに突き刺さる。重力に任せてそのまま下へ引くと、中からドロドロとした土が漏れ出した。フリートは空中に浮遊したままドロンを正面から蹴り飛ばす。さながら、ボールのごとく。
「やったか!?」
額に汗を滲ませたシュウが叫ぶ。奴の体の至る所から根が生えていてその体は静止した。……かのように、思えた。
「あ、クオリア!」
フリートの声がするのと、ドロンが動き出すのは同時だった。とっさに差し出された手のひらを掴み、上空へ引き上げられる。比較的太い木の上に着地した。先ほどまで俺のいた場所は表面の割れ目から溢れ出す泥で埋まっていた。よく見るとドロンは先ほどより小さくなっているように見える。中身が徐々に出ていっているのだろう。
「とどめはまだだ!」
「クオリアちゃん、待って!」
飛び出そうとした矢先、都子の声が鋭く耳に届く。思わず落ちそうになった俺の体を隣にいたフリートが支えてくれた。
「なんだよ!」
「よく見て。……自分の土を……」
言われた通りドロンを見ると、一回り小さくなった体が己から吐き出された泥の上にうずくまっている。……食べて、るのか? おおよそ信じられない光景に何度か目をこすった。
「まずい、ドロンの特性を覚えてるか?」
「確か、土を食べると巨大化するんすよね!」
「それだけじゃねえよ」
うん、と都子の頷く声が聞こえた。最初の大きさより何倍も大きくなっていくドロンの姿を前に、メンバー全員の唾が飲み込まれる。
「あいつの体の土は魔力が宿ってる。魔力が宿ってる土を食うと、ドロンは……」
頬がひく、と動いた。自然と顔が笑っている。さすがに一筋縄じゃ行かねえってわけだ。面白くなって来たじゃねえか。
「酔っ払うんだよ」
言語化できない咆哮が、俺たちの鼓膜を劈いた。
3/3
都子・バレンシアちゃん(@jJSQNOnDxELEzOK)
ヒイラギ シュウさん(@ponrete)
フリートヘルム・デーニッツさん(@mametiri)