レッツゴー
森と鉄パイプ!

クオリア
定期試験02



「……対戦?」
「おう! 俺と、都子で」
「えっと……どうして?」
 困惑した表情の都子を前に半ばウキウキした気持ちで俺は彼女を見つめていた。ちょうどお昼時、広いテトイの敷地内で俺はチームメンバーを探していた。偶然食堂を通りかかった時、彼女の姿が見えて飛んできたわけだ。
 俺が提案したのは一対一の手合わせだった。チームで共闘するなら味方の戦い方を熟知するのは当たり前だろう。そしてその一番手っ取り早い方法は手合わせだ。
「もちろん都子だけじゃないぜ? シュウやフリートにも頼む。二人には俺と都子が戦ってる姿を見ててもらえれば一気にわかるだろ、都子の戦い方も俺の戦い方も」
「そっか……でも怪我したりしないかな?」
 未だ迷っていそうな彼女が食事を口に運ぶ。
「それなんだよ。だから俺は考えた。大事なチームメンバーが試験前に怪我でもして戦闘不能になったら困るからな! 使うのはこれだ!」
 俺はポケットに入れておいた例の物を机の上に出した。都子はしっかり五秒、それを見つめるとパチクリと目を瞬かせてこちらをみた。
「……これは、リボン?」
「おう! どっかの国ではなんだっけ? なんつーか忘れたがこれを尻につけて追いかけっこする遊びがあるんだとよ。だから俺らはこれを使う」
 それは赤いリボンだった。適当に家の中で探したら出てきたもので、同じ形状のものが二つある。まぁ、これはあのクソ野郎から送られてきた小包に被せられていたものなのだが。
「これを引っ張れば取れる程度の強度のテープで腰あたりにつける。背中な。片方がこれを相手から取れば戦闘終了だ。簡単だし、相手の背後に回ればいいだけだから怪我もしねーだろ?」
「う、うーん……まぁ、危害を加えないって言うルールなら大丈夫かなぁ」
「大丈夫だって! な? やろうぜ?」
「ヒイラギくんとフリートくんにも確認とってからならいいよ」
 よっしゃ、とガッツポーズする。探してくる! と都子に告げ、食堂から走り去った。

「本当に大丈夫なのか? バレンシア先輩は大丈夫だと思うが、エルベールは手加減できるかどうか……」
 テトイ訓練所。フィールドには俺と都子が、観客席にはシュウとフリートが立っていた。険しい表情のシュウが納得していないように言う。
「大丈夫だって。俺は基本的にコレで殴るだけだからみんなわかるだろ? だから今回はコレを使わずに都子と戦う」
 言いながら、右手に持っていた鉄パイプをシュウに向けて投げた。シュウは慌ててキャッチする。フリートの横でぽよぽよと浮いてるポニモッツがビクッと体を震わせた。
「本当に、大丈夫なの? 鉄パイプは殴るだけの用途で使ってなかったでしょう」
「大丈夫。試験中に鉄パイプがぶっ壊れることもあるかもしれないだろ?」
 シュウに片手を上げる。教師は管制塔から一応見ているらしいが、このフィールドにはいなかった。準備OKの合図。シュウの声が、戦闘開始の合図になる。都子の背後で垂れ下がる赤いリボンを見つめた。
「……開始」
 声と同時に都子が腕を上げた。大きな袖が揺れる。聞いていただけの情報から、それにはもちろん対応していた。ポケットからマスクを取り出し装着する。すぐに真正面から走り出した。鉄パイプがあれば都子の前を走り高跳びの要領で飛び越え、すぐに背後に回るが今はそうはいかないだろう。都子の手はまだ袖から出ない。都子まで二十メートルのところで視界が暗くなった。
「なっ……!?」
 散布される煙を吸い込まないようにマスクはしていた。ちゃんと鼻まで隠している。なぜ、視界が……!
「後で解毒するからね……」
 何も見えない。目は開いているはずなのに視界には闇しか広がっていない。何か、打開策を。……ああ、そうか。目を閉じた。
 アイゼンは工業が盛んなため、比較的夜は明るい。しかしそれは街の話で田舎に行けば行くほど闇は濃くなっていく。特に田舎の森の中。光がなければ完全な闇、自分の服すら知覚できないほどの闇。そしてその闇は獣たちの十八番だった。
 見えないならば、見なければいい。視覚に使っている情報処理能力を他の五感に与えればいい。空気の動き、地面を踏む音。立ち止まって聞く。予測する。都子が、いた場所から俺の後ろまでくる時間は。微かな風圧が前方からやってくる。そのスピードはゆっくりで、彼女が歩いているんだと言うことがわかった。ぬるい。その場に座り込む。後少し、もう少しで彼女が俺に触れるはずだ。
 耳の横を手が通る気配がした。予想通り、彼女は座り込んだ俺の正面から手を伸ばして俺の背中のリボンを取ろうとしているのだろう。彼女の手が俺のリボンに触れる、その瞬間。
 横から手を伸ばした。探るまでもなくここからの距離は分かっている。
「あっ」
「……しゅ、終了! これは……どっちなんだ?」
「んー、引き分けじゃないっすかね?」
 未だ視界は戻らず、しかし俺の手にはちゃんと赤いリボンが握られていた。俺の背中からもリボンが取られた音と気配がしたため、ほぼ同時に終わったのだろう。
「と、とりあえず解毒するね、ごめんね……」
「全然いいぜ。なんか懐かしいもん思い出した。俺は目が見えなくなっても多少は動けるからな!」
「うん、びっくりした……。まさか取られると思ってなかったよ」
 都子の手が俺の目に重なる。数秒。ゆっくりと目を開けた。少しの間とはいえ闇に慣れ始めていた目が眩しい光に細まる。何度かゴシゴシと擦り、瞬きを繰り返した。
「大丈夫? 何か後遺症とかは……」
「大丈夫。スラム暮らしは毒に強いんだぜ?」
 ニッと笑ってみせるとどこか安心したように都子は笑って手を差し出した。その手を握り、ゆっくりと立ち上がった。

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