「メメロか……」
手渡された資料を眺めながら呟いた。食堂や商業棟の飲食店では割と主食に使われることの多い魔物だろう。その肉はなんとも言えない美味さがある。俺も何度か食べたことがあるが、食は進む。
「ざっと四方五百メートルほどを観測いたしましたが、それなりの数のメメロが潜んでいるようです。周囲の壁に溶け込んでいる個体もあるようですが、いかがいたしますか、レイ」
「そうだな……メメロの弱点とかはわかるか?」
「弱点、と言われましても、それ自体が非常に脆いものですので……」
「そうか。できる限り捕獲して届けたいところだな。見た目が……潰して心地いいようなものでもない」
特にたくさん捕まえるつもりもないからゆっくりでいいか、と思いいつも通り図書館へ向かう。道中、何人もの生徒が分裂するメメロに悪戦苦闘している姿が見られた。
図書館内は廊下と打って変わって比較的静かだ。いつも以上に人がいないようにも思える。メメロ関連の文献でも、と思い書架をめぐる途中、見覚えのある姿を見つけた。
「ノルン」
一度声をかけても彼女は気付く気配を見せない。ノルンとは図書館で知り合い、何度か一緒に勉強している仲ではあるが、彼女は初めから集中すると何も見えなくなるタイプだった。一つのことへの探究心は凄まじく、わからないことがあるとそれが解決するまで先に進まない。良くも悪くも、真面目で好奇心旺盛なのである。
「……ノルン」
再度声を掛ける。机の反対側から、ノルンの視界に入るであろう机の上をコンコン、と叩くとようやく彼女は俺の存在に気づいたようだ。
「レイさん! すいません、どうされたんですか?」
「メメロについて調べようと思っていたら君を見つけたから」
「そうだったんですね! 私も今調べてるところなんです。一緒に見ませんか?」
ああ、と頷いて向かい側に座る。彼女の視線はすぐに本の中に戻った。
「メメロは見つけた?」
「まだです。ずっとここで調べていたから……」
やがて語尾も曖昧になり、彼女の視線と意識は本の中に埋もれて行く。と、その時。彼女の背後からぴょこっと顔を出すものがいた。……それは。
「ノルン、メメロ」
「んー、いま調べてるんですよ」
「いや、そうじゃなくて」
え? と彼女が顔を上げた時にはもうすでにメメロは引っ込んでいて、なんのギャグだ、と頭を抱えそうになった。通達があってからすでに一時間ほどが経過しているが、その間彼女はずっと気づかずにここにいたのだろうか。
俺が捕まえてもいいのだが、あれは彼女の獲物だろう。彼女自身で獲ればいい。
「君はもう少し周りを見たほうがいい、君のためにも」
「ええ、わかりました」
不思議そうな顔をして首を左右に動かしキョロキョロと周りを見る彼女の目にはやはりメメロが入っていない。俺が戻ってくるまでに捕まえていなければ一匹か二匹分けてやろう、と心に決め、苦笑いを残してその場を去った。
ノルンちゃん(@02onslice)