ドゥム

レイ
魔物棟05 - 1


「いいですか、手っ取り早く片付けて研究に時間を割きます」
 珍しくフィールドに立っていたのはパトリック・グレイ。彼の研究に必要だという、ドゥムの赤い石を取りに魔物棟に来ていた。
「ああ、もちろんです」
 年下だというのについ、敬語を使ってしまうのはやはり彼の立ち振る舞いによるものなのだろう。あまり普段は戦闘をしているところを見ないが、今回は俄然やる気らしい。彼曰く、野生よりも魔物棟で狩った方が手間が少ないのだそうだ。
「じゃあ、始めますよ」
 右手を挙げる。例のごとくモニタリングしていた戦闘学の教師、グラの声が次いで響き渡った。
「レイ・H・クロンツェ、パトリック・グレイ両名による魔物討伐訓練を開始する。……始めッ」
Dia della terra, Dia del cielo. Dare quel beneflcio天の神よ、地の神よ。我にその恩恵を与え給え
 基本詠唱に重ねてパトリックの強化魔法が体に染み込んでいく。解放されたドゥムは気色の悪い笑い声をあげながらこちらへ近づいてくる。
「奴は弱体化に富んだ魔物です。あの黒く細い腕に絡みつかれれば魔力を全部吸い取られますよ」
「弱点は?」
 そう聞きながらもどんどん近づいてくるドゥムを遮るため、詠唱を唱える。倒すと言っておきながらほぼ無計画で突っ込んでいた。
Torreggiante muro di terra聳え立つ土の壁
 ひとまずは接近を避けるため、俺たちとドゥムの間に壁を立てる。しかし。
「貴方、馬鹿ですか! あの魔物は影を移動するんです!」
 忠告と同時に壁によってできた影からドゥムが現れる。先ほどまで一体だったのにもかかわらずその姿は三体に増えていた。おそらく土を隆起させる際に迸った魔力を吸ったのだろう。あっさりと魔力を失った土の壁は崩れ落ちる。
「弱点はあの赤い目です。破壊したところであの個体自体が目的の赤い石になるので問題ありません!」
 つまりはさっさと破壊しろというわけだ。さてどうするか、考えあぐねいているとパトリックは無属性魔法で浮き上がっていた。
「引きつけてください。背後から目を射抜きます」
 少し楽しそうにいう彼の視線の先には三体に増えたドゥムがいる。魔力さえ与え続ければさらに増えるらしいから、おそらく彼はそれを狙っていたのだろう。研究対象が増えたことに喜びを感じている目だった。
Fioritura di fioriterra咲き乱れし土の花
 ひとまず土を動かす。ドゥムができるだけこちらに視線を送るよう、大げさな動きをした。
Coagulare il nostro signore凝固せよ我が主
 ドゥム周辺の土を宙に浮かし、自分の方へと動かす。陽動だけならそう難しいことはない。
「一体目です」
 物の見事に背後に回ったパトリックのボウガンの矢がバシュッと音を立ててドゥムの脳天に突き刺さった。なぜ背後から見て赤い目の部分を的確に射ぬけるのだろう、と思いながらもそのボウガンは赤い石とともに地面に落ちる。
 しかし残りの二体がその攻撃によりパトリックの存在に気づいた。彼がとっさに俺に目配せする。あれは惹きつけろ、ではなくこの隙に殺れという合図だ。そのはずだ。
 逃げ回るパトリックとそれを追いかけるドゥム二体を尻目に見ながら土を動かした。
 陽動用に浮かせていた土の塊を二つに絞り、一気に削っていく。強化のおかげか魔法の制御もスムーズにでき、やがて二つの土の塊は鋭利な刃物へと変貌を遂げた。
Les ciao giuその身を降らせ
 二体のドゥムめがけてまっすぐ軌道を描いて突き刺す。ほとんど勘でさしたが、どうやらあっていたようで二体の動きが止まりドゥムは赤い石へと変貌した。同時に刺さっていた土の塊はサラサラと土へ戻る。

ドゥム1/2
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