ドゥム

レイ
魔物棟05 - 2


 案外あっけない終わりだと安堵した。しかしなぜか戦闘終了のコールはかからない。
「……先生、終わりじゃないんですか!」
 叫んだが返答はない。終わっていない、という暗示だろう。なぜだ? 何が残っている?
 息を乱したパトリックがこちらへ戻ってくる。彼もわかっていないようだ。周囲を見渡す。どこに隠れている……?
「……っ、クロンツェ!」
Gemiti le mie ali唸れ我が翼
 それは間一髪の出来事だった。あとコンマ一秒でも解放詠唱が遅れ、飛び立っていなければその黒く細い腕が俺の魔力を全て奪っていっただろう。
 神経をとがらせていたおかげで足元の影から現れるドゥムの片鱗に気づけたのだ。考えるよりも早くすべきことがわかっていた。強化のおかげか、動きも素早くなりパトリックを抱えて飛び上がる。
 しかし上に逃げてもなお、そのドゥムはぐんぐん伸びて追ってきていた。
「もう大丈夫です。私は離れます。空中なら挟み撃ちでできるはずです」
「この状態で俺は魔法が使えない」
 少し計算外だという顔をしたのち、一度こめかみに指を当てて頷いた。腕の中で重さを持っていたパトリックの体がふわりと軽くなる。無属性魔法で浮いているのだろう。
「ドゥムを惹きつけてください。なんとかして回り込みます」
「あんまり長い間は無理だ」
 パトリックが俺の腕から解き放たれ、まず俺の後ろに回った。ここはひとつ賭けるしかない。
 パトリックが背後から遠ざかる瞬間に彼とは別方向に逃げた。ドゥムの動きが一瞬止まり、直後。
「……、すまない!」
 外れた。ドゥムは俺ではなくパトリックを追いかける。困った顔をしながら逃げ回るパトリックを見つめながら考えた。一番手っ取り早い方法はこれしかない。
 ドゥムの背後めがけて飛ぶ。体当たりか、触れたりすればなんとか動きは止まるだろう。数秒後、眼前まで迫ったドゥムの黒い後頭部に突っ込もうとした。その瞬間くるっと振り返ったドゥムの赤い目が目の前に映る。足にあの手が絡みついた感触がした。風船がしぼむように体の中から魔力が抜けていく気がした。
「動かないでください!」
 パトリックの姿が赤い目越しに映る。直後、例の音とともにドゥムの頭に直撃した。あと少し近付いていたら俺にも刺さっていたかもしれないほど間近にその矢があった。
「う、わっ」
 ドゥムが赤い石に変わると同時に、俺の足を拘束していた手も消えた。だいぶ魔力を吸われていたようで、飛んでいることができずに落ちていく。地面に叩きつけられるかと思ったその時、腕がパッと掴まれた。
「……全く、世話の焼ける人ですね」
「はは、ごめんなさい」
 パトリックの補助でようやく地面に着地し、安堵する。あの高さから落ちても骨折程度で終わるだろうが、やはり痛いのは嫌だ。
「戦闘終了! 戦闘時間六分四十七秒」
 ため息をついたパトリックが落ちている赤い石を拾い始めた。このあと、あんな無茶な戦い方をするなんて、と怒られるんだろうなぁと思いながらその背中に続いた。

ドゥム2/2
パトリック・グレイくん(@inuinu_1111)
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