瞼の裏の星空

ガイ
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「ロトくん! おはよう! いや、こんにちは! ん? あるいはこんばんはかね!」
「……げ」
 背後から大声で話しかけると、あからさまに嫌そうな顔をした青年がこちらを見た。彼から生えている蛇数匹がシャーっと牙をむいたが、リークイドを見るとすぐにロトの背中に隠れてしまった。怯えているらしい。
「ウゼェ、寄るな」
「HAHAHA! そんな嫌ってくれるなロトくん! 照れ隠しだな、わかるぞ!」
 無言でこちらを睨んだ彼が盛大な舌打ちとともに浮遊したままどこかへ漂い始めた。速度は徐々に早くなり、ゆっくり歩く私の速度では追いつかなさそうだ。全く照れ屋な青年だ。私としては彼の生い立ちや契約について、失ったものについても様々な話を聞きたいと常々思っているのだが、彼と知り合って以来その願望が叶ったことはない。
 ため息をついて歩き出す。そこらで怒号や悲鳴、得体の知れない生き物の鳴き声がしてはいるものの、それももはや日常茶飯事である。この世界は暗く、そして音はおぞましい。
「あら、ガイセンセ? 一人でお散歩かしら*?」
「おや、ハルフゥくん。今日も君のイカ足は元気そうだね」
 薄暗い世界にそぐわぬ明るいミント色のイカ足がうねうねと動き回っている。いささか興奮気味の彼女は左腕を中途半端に持ち上げてこちらを見ていた。彼女は……少し扱いにくい。こうして話しかけてくるときは大抵決まって彼女の方に目的があるのだ。
「わかるかしら*? そういうところワタシ好きよぉ。ところで、ねぇアナタ、そんなに一人で暇そうにしているならちょっと私の縞々見てくれないかしらぁ? ほら、これ……!」
 案の定ぐいっと目の前に差し出してきた彼女の左腕は歪な……否、綺麗な、と言ったほうが彼女は喜ぶかもしれないが、横縞が刻まれていた。青黒い血が滴り落ちている傷は新しく、かさぶたになりつつあるものは古いものなのだろう。よく見れば塞がった傷の上にさらに傷をつけているものもあるようで、痕は何重にも重なっていた。
「ハハハ、今日も元気そうでなによりだハルフゥくん。一人で楽しみたまえ!」
「ああん、いけずぅ。わかるわぁ。今アナタ、ワタシのこと嫌ったわね? はぁ*、辛いわ。切りましょ」
 一人で悦に入り始めた彼女をその場において今度はそそくさと私が逃げる。まったくこの世界は面白い。彼女のような問題児をたくさん抱えているウィバオというクラスが、元の世界から追放されるのは仕方のないことだったのかもしれない。

ロトくん(@homu_o)
ハルフゥさん(@mi4ro_tw)
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