イカの味を果たして"私"は知っていたのだろうか。リークイドに体の肉を奪われる前。それはきっと私が私ではなかった頃。何を食べ、誰と話し、どんな生活をしていたのか。私は全く覚えていない。肉のあるヒトがどんな生活をするのか、目を覚ましたばかりの頃は一切わからなかった。だから話を聞くことにしたのだ。ヒトの話を聞いて、ヒトの生活に己を近づけた。それはきっと今の私の、ヒトへの憧れからなのだろう。
彼女は幸い追ってこなかったようで、安堵したまま進めていた歩のスピードを緩めた。
「こら、それはおともだちです! それから、あんまり近づいてはいけませんっ」
可愛らしい声が聞こえて振り返るとそこには下半身に魔物を携えた少女がにこやかにこちらを見ていた。ポン=ヴィルテ=ポタリエ。全体的に丸いフォームは魔物というよりマスコットを連想させる。
「おやおや、元気にしてるかいポポくん」
「はい! ポポは元気なのです。ガイさんも元気でなによりなのです!」
ポポの可愛らしい笑顔を見ていると、なんだか先ほどまでの少し下がっていた気分も明るくなってくる。きっと私の表情は彼女にもわからないのだろうが、それはそれで仕方ないことだろう。
「ガイさん? どうされたのです?」
「いやはや、ポポくんは本当に癒しだよ。リークイドさえいなければ抱きしめていたところさ!」
「それは、残念なのです。でもポポはリークイドさんもおともだちなのですよ」
「HAHAHA! だそうだ、よかったなぁリークイド!」
ポポとは少し他愛もない話をして別れた。心穏やかにほのぼのとした面持ちで歩いていると、やはり鼻歌が漏れてくる。全てデタラメな音程、歌詞ではあるものの、なんだか気分がいい。
「随分とおかしな歌を歌ってるね、同胞よ」
「ん? ああ、ミトくんではないか! 君、生きてたんだなぁ」
真っ赤な花を己に咲かせる男。彼はその見た目からそこはかとなく長生きの香りを醸し出すが、彼もまた私の疑問には答えてくれない。覚えていないのだ。彼が契約する前のこと。彼の名前も。
「最後に会ったのはいつだったか。そんなに時間は経っていたか?」
「HAHAHA! 全く覚えてないよ!」
彼と会うのは気まぐれだ。この世界ではそれなりに愉快にやっているようだが、安寧などとは程遠い。定住など、一人ではほとんど不可能に近い。だからこそウィバオの生徒でも死人は出るし、群れをなすものもいるのだ。彼だけではない。ロトやハルフゥ、ポポに至ってもなお、再会できるのは半ば奇跡に近いような気がしなくもない。
ポポちゃん(@4673kanata)
ミトリヒさん(@hakabakasii)