「それで、貴方が目を覚ましたのは翌々日の九時から十五時の間……といったところですね」
「物分かりが早くて助かるよ、メルトティアートくん。そう! そしてその日からまたリークイドを中心に私は時を刻み始めた! 忘れたことなどないよ。あの日から百八十七年と二百七十五日、そして九時間ちょっとだ」
渾身のドヤ顔をしたつもりではあったのだが、二人にはあまり伝わっていないようだった。困惑の表情から二人のそれは徐々に呆れの色が入って来ている。ふむ、何も伝わっていない。表情がわからないというのは難儀なことだ。
「つまりだよ。今この時間は夜だということを私は言いたいんだ」
「もう少し簡潔に話せただろう」
「少々冗長すぎましたね。物語はわかりやすいのが一番ですよ」
思わず関節が外れるかと思うほどずっこけそうになった二人の味気のないツッコミに大きなため息をついた。
無論、ここまで展開して来た持論は全くもって信憑性のないものであることは自分がよくわかっている。リークイドの空腹度など完全に制御できるものではない。野性的なものを理性で押さえ込み、コントロールした気になっていたのは向こうの世界での食事の主導権が完全に私にあったからだ。こちらの世界では遠慮する必要がない。リークイドが腹を空かしたといえば私は食べさせるだろう。
だからこそ信憑性も正確性も一切ないこのくだらない茶番を信用しない二人の気持ちもわかるのだ。しかし大事なのは論理の破綻でも私のホラ話でもない。それはこの空のことなのである。
「おおよそ向こうの世界では夜空を見上げれば何があったかね? まず煌々と輝く夜の太陽、月だ! そしてその周辺には煌めきながら存在を主張する大小様々な星があった! だが今、空を見上げてみろ!」
思わず言葉に熱がこもる。二人は素直に鈍色に濁る空を見上げた。
「……何もないな」
「ええ、何もありませんね」
「そう。どうやら今日も、星は見えないらしい」
渾身の落胆を込めた私の言葉の思いはようやく二人に伝わったらしく、メルトティアートはその表情をほのかに微笑ませた。
「貴殿は星が見たかった、それだけか?」
「悪いかね? ミトくん。星を見るということはきっと人生において大切なことの一つだと思うのだが」
今度ははっきり、くすっとメルトティアートが笑う。その辺りの岩に腰を落ち着かせると、彼は目を閉じた。
「では、そんな貴方へ星にまつわる物語でも語りましょう。目を閉じて、夜空を想像してください」
はて、目を閉じるとはどういう感覚だったか。思い出すのには時間がかかりそうだ。
[ ガイへのお題は『今日も星空は見えないみたいだ』です。 ]
(https://shindanmaker.com/392860)
ミトリヒさん(@hakabakasii)
メルトティアートさん(@Kina_mochi)
おおよそ星空が見えないという話を書きたかっただけなのにめちゃくちゃ長くなりました。