エゴの先



 テュルキースバルト。主に妖精や植物に関わる種族のものが住まう国。食物についても豊富なはずの国が、今危機に襲われている。
 といった内容の討伐依頼がきた、と教師が説明する中、すでに僕は行く意思を確立していた。どんな内容だって構わない。この学校に来た討伐依頼は全部参加してやる。あの日から僕はずっとそれを守り続けている。



 緑の地へと足を踏み入れた。ふわりとした土の感触が足の裏にダイレクトに感じる。
 街を見る限り、普通の住民たちで溢れているように思えて仕方なかった。このなかにマネルが化けた住民がいるとは信じがたい。
 他の生徒たちが次々に街中へ駆け出して行くなか、別の方向へ歩き始めた。マネル程度の魔物なら他の人に任せてたって構わない。でももう一体、この国を悩ませている魔物は人によっては折れる。その隙は致命傷につながるだろう。一人でもそういう生徒を救いたかった。
 世の中にある感情は、命をかけた戦闘の中で致命傷を作る。優しさだとか、恐怖だとか、憎しみだとか。そういったものが必ず戦闘中の迷いにつながり動きを鈍らせるのだ。
 もう、だいぶ昔になってしまった。この先生きる人生のことを考えると、だいぶささやかな時間。一緒にいた彼女のことを思い出す。彼女もそうだった。ひどく優しく、情け深く、力以上のことをしようとして死んだ。命なんてそんな程度でなくなるものだとわかっているはずなのに、受け入れるまで時間がかかってしまった。
 街から離れて行くにつれて徐々に緑はその濃さを増して行く。いたるところで戦闘の音頭が取られていった。複数人で協力しながらミラージュを倒して行くチームがほとんどで安堵した。もう誰かが死ぬのは見たくない。
 森の中を駆けていると目の端に白い翼が映った。どこかで知っているようなそれを頼りに近づいて行く。そこには。
「……レイ」
 年齢でも学年でも後輩にあたるレイが一人でミラージュが擬態したと思しき真っ黒な獣と対峙していた。
 あんな獣……いや、魔物を僕は見たことがない。それはまるで闇だった。漆黒を通り越した、真の闇に近い黒。全くといっていいほど周囲の緑に溶け込まず、それはそこにあった。
 気になるのはそれだけではない。レイ・H・クロンツェという男が得意とする戦法はその膨大な魔力にある。調整のための詠唱を唱えながら周囲の土を操るのだ。ここは森の中、土も豊富で彼の魔力も使いやすいはずなのにどうして彼は今、近接戦闘をしているんだろう。
 おそらく土で作り上げたのだろう剣を振り回しながら血走った目を滾らせて真正面からぶつかっている。どこかで見たことのあるような太刀筋だが、その見本とは基本が違いすぎてまるで隙だらけだ。吹き飛ばされる度に傷が増えていたが、彼は気にせず立ち上がっている。
 ……僕が恐れているのはこれだった。このままいけば彼は疲労でさらに動きが鈍り、急所をつかれて死ぬかもしれない。気が動転しているのか、憎しみに支配されて何も見えていないのか。何がどうあってもとにかく手を出さずにはいられなかった。
「あのバカ……!」
 両手に鬼火を出現させる。戦闘範囲に入り込む直前、鬼火を魔物へぶつけた。意味のわからない叫び声をあげて炎に埋もれ魔物はうごめいた。レイの動きが止まる。ゆっくり振り向いた彼の表情は、呆然としていた。

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