「ちょっと、アンタ何してんの?」
目の前にマネルを見据えながら呆然と立ちすくんでいた生徒を見つけ、思わず声をかけていた。僕と同じくらいの身長のその女性には、白に水色が混じったような髪の中に黒い角のようなものが浮かんでいた。太ももにはナイフが三本。攻撃はできるだろうに、一切攻撃していない。どこかで見たことがあるような気がして心の中で首を傾げていた。
声をかけるついでにマネルの背後からクナイをその首に突き刺した。あっさり生き絶えたマネルはうつぶせに倒れる。
彼女は驚いたように僕を見つめた。まるで僕の言っていることがわからない、と言っているかのような表情に困惑を隠せない。
「この人、街の人やないの?」
「背中見りゃ一発でしょ? マネルの尻尾ついてるから」
「……ほんと」
倒れたマネルは程なくして猿の姿に戻った。周囲が騒がしくなる。血の匂いか、一匹が死んだからか、マネルが集まってきているようだ。
「君、戦えるかえ?」
「もちろん。ちょっと手伝ってよね」
数はそこまで多くない。すぐに倒しきれるだろう。戦闘態勢に構える。マネルはみんな街の人に化けていて戦闘力もないようだ。いささか僕が殺すには罪悪感が生まれはするが甘いことは言っていられない。
と、目の端に見たことのない影を感じた。体の周りに不思議な竜のような精霊が飛び回っている。これは……? と怪訝な顔で彼女を見ると、彼女はお茶目にもウインクして見せた。
「強化用のペットやっちゃ。君の武器はその刃物かえ?」
「うん。アンタ強化属性だったのね。にしても綺麗……」
両手に握ったクナイの中にその精霊は吸い込まれていく。ほんの少し、元の黒色から青に光ったクナイは一見変化がないように思えた。
「始めるよ」
走り始めたと同時にまず一匹目のマネルに斬りかかった。クナイは狙わずとも急所に突き刺さる。一撃で絶命したマネルの上を乗り越え、次のマネルを狙った。なるほど、さっきの強化魔法はこうやって使われるのね。納得しながら彼女の方へ視線を移動させると彼女も薙刀を持ってマネルを嬲り殺しているところだった。
どうせならもっと効率よく行こう。体の周りに炎を出現させる。今回は特に投げずに、近寄ってきたマネルを燃やしていく戦法だ。ひと一人くらいは燃やせる大きさの炎を二つ、体の両脇に置いた。
「そういえばアンタ名前なんていうの?」
「セレーネー。セレネでええよ」
「僕は茉紘、よろしくセレネ」
思い出した。彼女もだいぶ長いことこの学園にいる生徒だ。長く留年している生徒は同じ境遇ゆえかとても自然と仲間意識が働くし、何より目立つ。今年もいるのか、と年度の初めには思うものだ。きっと相手も僕のことをそう思っているだろうけど。
セレネは薙刀で何匹かのマネルを串刺しにすると、太もものナイフを取り出して投げた。それは的確にマネルの急所を捉える。後ろはきっと大丈夫。前だけ見ておこう。
ものの数分でその場にいたマネルたちは死体に変わった。一応一箇所にその死体を積み上げ、先端にちょこっと火をつけると死体はものの見事に燃え上がった。周りの木に燃え移らないよう、無属性魔法で障壁を作る。気絶していただけのマネルが一瞬目を覚まして悲鳴をあげたがすぐに絶命した。
「フゥ。これでおしまいね。お疲れ」
「お疲れさん。女の子やのに頼もしいやっちゃ。助かったわ」
いい加減このパターンは慣れてしまった。彼女はなんてことのないように周囲を見回し、誰かを探しているような様子を見せる。
「僕、男。よく間違われるけど。僕が可愛すぎるゆえかな」
「え?」
ドヤ顔してみせると彼女は今までで一番驚いた表情を見せた。吹き出した僕の笑い声が森にこだました。
セレネさん(@Sake_rao_)と共闘