赤と銀

01 - 茉紘
修練棟 16時の部




 その赤は、炎というより血液に近い色をしていた。頬に走ったひとすじの赤色が、流れ星のように煌めいた。
 まずは正攻法、正面から駆け出していく。彼女はそれでも動くことなくまっすぐに僕を見つめていた。青い炎を纏ったクナイは惑うことなく彼女の心臓めがけて動く。たとえ模擬戦とはいえ、僕は目の前の相手の息の根を止めに行く。そうでもしなければきっと傷すらもつけられない。手加減をして相手を倒そうなんて、バカらしい。
「……やるじゃん」
 炎の表面が彼女に触れようとした瞬間、それは圧倒的な風圧でかき消された。同時に見えない壁のようなものが彼女の目の前に出現し、そしてなお彼女の口からは理解できない言語の言葉が歌うように流れ出ている。もう一度右腕を振り上げて彼女に突き刺そうとしても、そのクナイは風の回転率を圧縮した透明な障壁に遮られ彼女に届くことはなかった。
 彼女の瞳が左右に動く。僕の両側から竜巻のようなものが起こった。無属性魔法であることはわかる。抜け出そうとするよりも前に腕が彼女によって傷つけられたことに気づいた。竜巻の中でさらに風を鋭く凝縮し、一種のかまいたちのような効果を生んだのだろう。制服が破れ、僕の皮膚が切れる。とっさに背後へ後ずさり距離をとった。なおのことこちらへ迫る透明なかまいたちに向けて鬼火を降らせた。そこから魔力を吸収させる。徐々に弱まる風圧が、やがて消えた時。僕の両腕は傷だらけになっていてなお、彼女は一ミリも動いていなかった。
 隙がない。どこか、誰かが動かしてくれれば。彼女の背後に回ろうにも、一対一ならば上を通るほかないだろう。それでも僕の動きは捕捉され、どうにもならなくなる。一瞬でいい、誰か……。


修練棟 16時の部
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