どうしてと呟いてからは何も言えなかった。ささやかな絶望を咀嚼して飲み込んだ生徒たちから徐々に走り出していく。あの崩壊する国を見ていたから、みんなやるべきことを理解しているようだ。
僕も……僕だって、わかっている。頭では理解している。それでも、蠢く化物が学園を陵辱していることを認識したくなくて、足が止まっていた。
右手の小指が目に入る。マツリカからもらった星、ヒルデが作ってくれた指輪。なんのために僕は、討伐に出ていたんだっけ。
「……返して」
水場の上を飛んでいく。
「学園を返して」
僕が、故郷よりも長く生きていた場所。大切な友人に出会った場所。大切な友人を失った場所。人の死を理解した場所。命が繋がる様を見ていた場所。こんなことをするのは誰。わがままだって言われてもいい、だってここは僕の、大事な場所なんだから。
「死者は土の下に戻りなさい!」
出現させた数多の種火をかつてこの地を踏みしめていた体に当てていく。寮の方を見たけれど、後者も含めて屋内に被害は至っていないらしい。食い止めなければならない。大切な学園を。たとえその裏にどんなものが潜んでいたとしても。
*
倒していく。死んだ命をもう一度失くしていく。首をとっても、腕や足をもいでも這いずるように動く彼らに命はもうない。わかっていても、生きていたことがわかるような言葉を喋る個体には罪悪感を殺しきれなかった。きっと僕もどこかでこの子とすれ違っている。同じ校舎で学んだ人を、この手で殺すのは苦しい。
「……無尽蔵ってワケ」
事情を知っているかもしれない生徒たちに話を聞こうにも、行く手を阻む元生徒たちが会話を困難にさせる。くわえて地面から得体の知れないでかい虫も出てくるから、まともに話していられない。知り合いにもまだそこまで会えていないし、やっぱり早急にみんなの無事を確認した方がいいだろうか。
「……マヒロ」
「あ、ちょうどよかった。ねぇ、今何が……」
持っていたクナイが地面に落ちる。炎が不自然な揺らぎ方をした。気を、抜いていたんだと思う。最悪の同窓会のせいで、昔の学園にいる気がしていた。聞き慣れた声だったからまだ普通にそこに存在しているような気がしていた。だってずっと誰の声も聞いてないから。
「マヒロ。マァ……ひ、ロ。ァ、マヒロ」
振り上げられた彼女の右腕から何かがポロリと落ちた。僕に渡さなかった星で作り上げたブレスレットが一つ、地面に着地する。視線がそちらに惹きつけられた時、彼女の腕が僕めがけて下された。
もし、いるのならば神様。これは僕への罰ですか? ずっと前に進もうとしない僕の、罪だと言うのですか。