「アンタ戦わないの?」
怒号、破壊音、悲鳴。様々な音が入り乱れる修練棟の中でアレンの隣に立ちながら戦況を眺めていた。
彼は表情を動かさず、しかし珍しく自分の足で立ちながら透き通るような金髪の下で碧眼をフィールドに走らせていた。
「あいにく私は強化専門でな」
アレンの方に飛んできた何かの攻撃の破片をクナイで弾き飛ばした。彼の顔色は眼前に迫る鋭い破片にも変わることはなく、さも僕が守るであろうことを知っているかのように変わらず立ち続けている。
「あ、ヒルデだ」
視界に白銀のツインテールと根元で揺れる紅色のリボンを捉えて声を上げる。三人で揃うことが時折あるせいか、アレンも視線を動かして彼女を見た。
「アンタがここにいるなら僕もうそろそろ前線いくね」
「ああ。強化は既に施した」
「さっすがアレン。ありがと」
手を振って、制服の上着を翻しヒルデめがけて駆けていく。アレンには専属ボディガードのようなアンドロイドがいたはずだし、彼一人でも防御程度ならできるだろう。そうでなければこのイベントに参加するはずがない。
「ヒルデ!」
「参加していたのだな、茉紘」
「もちー。ヒルデ、大丈夫? 顔に傷とかついたら僕が嫌なんだけど」
「ならば茉紘が守ってくれよ?」
「言うじゃん。いーよ」
存外に、交戦中の真っ只中は安全であることが多い。否、流れ弾があるせいで完全な安全とは言えないのだが、盲点の一つで攻撃を仕掛けられる可能性は低い。何よりも自分たちの攻撃に意識が回っていてほかの生徒を見やる余裕が無いのだから。
台風の目のようにヒルデと二人で談笑していると肩をとんとんと叩かれた。振り返ればそこにはちいの姿。にこにこと笑いながら、その背後にくらい影を落としている。
「いいもん連れてきたじゃん?」
迫る有刺鉄線をはじき飛ばした。空中で血液に変化し、その主へ帰結していく。辿ればそこには赤い制服を纏った生徒達。見かけたことはあれど、さして会話したことは無い人たちだ。この混戦の中では、話したことのない奴らにですら喧嘩を挑まれる。なかなかに面白いイベントだと毎年思う所以はここにあった。
「ここにいると休む暇もないな」
「そりゃずっと戦ってんだもん。前線に出てくりゃねぇ」
ちいがその通りだと頷いている。対峙した生徒は三名。一人はヒルデの髪よりも白く、短い髪を携え、琥珀色の瞳をしているだいぶ色白の生徒だ。手の先が見えない袖の中に血液が入って行ったことから、彼は金属性の血液使い……かなり魔力も素質も高いと推測できる。
一人は橙に近い、赤の髪を持った青年だ。瞳もまた髪の色に似て、どこか夕焼けを想像させる。制服の上から黒いフードをかぶり、その下には獣の耳が覗いているらしい。腕には番傘。どこか雨の匂いがする、もしかしたら水属性かもしれないと思うと、僕には不利な相手だ。
そして最後の一人。こちらも獣の耳を持っていた。外ハネの髪色は深い紺色、ピンと伸びた耳からは薄い紅色が覗く。瞳は黄色と緑のオッドアイで、口元にはキラリと牙が光った。どこかの文献で見た貴族のような襟をしながらレイピアを構えた彼はいたずらっぽく笑っている。
「なあ、にゃんでオレもここにいるんだ?」
「盾が欲しいかなって思って」
「相手五年生二人もいるし、ちょっと心もとなかったしな」
どこかほのぼのした雰囲気の相手たちにちょっとだけペースが崩れる。ゆるい、と言ってもこっちもこっちでちいはニコニコ笑っているし、ヒルデも楽しそうに口角が上がっている。
「ちょっとぉ。緊張感足りなさすぎじゃない?」
「良い、面白い。貴様らがその気なら、のう、茉紘、ちい?」
ニヤリとヒルデがこちらを見やる。紅色の瞳がいたずらっぽく潤んでいた。ちいは相変わらず何も言わずに袖からシュルシュルと針金を出し、臨戦態勢を整える。
「……行くよ」
僕が少し先、その後ろをヒルデがついてくる。ちいは動くことなく、しかし針金は僕の顔の横に常にいた。
修練棟 16時の部
アレンくん(@homu_o)、ちいくん(@utatane__zZ)、ヒルデちゃん(@Kina_mochi)、エルロくん(@tukinoze)、鴇羽くん、雨麗さん(@shiroyagisan__)お借りしました!
多分続きます。