煤竹は咆哮した。先ほどまでのような痛みをこらえるためのものではなく、心の底から楽しそうな悲鳴に近い。ぽっかり穴の空いた着物は背後の景色を写している。
「チッ、めんどくせェ」
煤竹が所構わず炎を飛ばしていた先にいた不運な青年は苛立ちを隠さずにぼやいた。煤竹の目が赤く光る。青年に向けて着物の袖が振り上げられる。煙が徐々に青年へ迫った。黒々とした炎が煙の中から沸き起こる。
青年は己の体を守るように白い蛇を煙へ向けた。シャーっと舌が出る。青年の表情は無表情のまま、変化しない。
「お前、煤竹っつーの」
「おうよ! で、俺ちゃんはアクズミだ。こいつ今ちっとばかしむしゃくしゃしてっから相手してやってくれ!」
「……ハァ?」
心底意味のわからないという顔をした青年へ、煤竹は何も考えずに炎を送った。ほのかに紫が光って炎は形あるものかのように腐り落ちた。
「煤竹、アイツ弱体っぽいぜェ」
能天気な魔物の声だけがその場に響く。煤竹と青年は視線を決してお互いから外さずとも出方を伺っていた。煤竹の額に汗がにじむ。
「う……うヴ、ゥヴウゥ」
煤竹の視線が下がる、その一瞬を青年は見逃さなかった。白い蛇が数匹、煤竹の体めがけて走る。青年は先ほどの攻撃が体を貫通したことを覚えている。蛇の頭は露出されている肌まで一直線に狙う。
「おっと、煤竹ェ、角、やべぇぞ」
「ウゥ!」
跳躍、否浮遊する。数匹の蛇のうち何体かはそのまま着物の上から体を貫いたが、一匹はまだ煤竹の顔へ迫った。おそらく青年は無意識に、本能的に行なっているのだろう。煤竹は角を傷つけられるのはもっとも嫌う。脆いものでなくても、煤竹にとって傷つけてはいけない神聖なものであるからだ。
煤竹はとっさに腕を生成する。魔力の操作が追いつかず、それはもはや単なる棒のような腕になった。角を守るように振り上げると、現れた固形物に蛇は大口をあけて噛み付いた。体を貫いていた蛇も、その体をかき混ぜるように暴れまわる。
「ヴゥアァアアアアァァァアアァァア!」
痛みへの咆哮。魔物の世界すべてに轟くのではないかと思えるほどの悲鳴が辺りを包んだ。青年も思わず耳をふさぐ。ふ、と煤竹の体から力がぬけ、飛び上がっていた体はそのまま地面へと叩きつけられた。
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