軽口
茉紘の悲鳴のような叫び声の後、クオリアの両手が斧を振り上げた。空中から思い切り振り下ろされた斧の先端がゾンビドラゴンの首を捉えるとともにその咆哮がひときわ大きくなり、しぼむように縮まっていく。檻が消えたのは同時だった。ごろんと地面に首が落ちたのととともに隣にいたアルミリアの体からも力が抜けた。
「あ」
クオリアが地上十数メートルのところから落下する。下手をすれば骨折だ。感覚のない腕では受け止めるための土を生成することもままならない。
ゾンビドラゴンの腹側に入り込んでいた茉紘が、とっさにその服をつかんだ。乱暴ながらもしっかりと落下を防いだ彼は大きなため息と同時に着地する。
「今度はちゃんと降りられたな」
「随分余裕こくじゃん? 足震えてるけど」
「しゃーねーだろ麻痺残ってんだから」
軽口を叩きながらこちらへ戻ってくる二人はそれでも、クオリアのことをしっかりと茉紘が支えていた。
隣で動作を停止したアルミリアの方を少し揺らす。関節がなかなか動かせないらしく、瞳だけがこちらを向いた。
「大丈夫です。稼働可能魔力残量がボーダーを下回っただけです」
「それ大丈夫って言わないよな」
「休めば大気中の魔力を吸収して貯蓄されます」
なかなか表情の動かないアルミリアの、瞳だけで笑う姿を見たのは何度目だろう。
「アル、魔力ちょっとわけるよ。代わりにこいつを救急テントまで連れてって」
支えていた体をあっさり投げ飛ばし、クオリアは本日二度目の顔面着地を決めた。容赦のない茉紘の姿に苦笑する。白に近い炎を生成した茉紘は、アルミリアの心臓部にそっと押し込んだ。驚いたように赤い瞳が動き、同時に関節も動き出す。
「っとにこのチビ……」
「小ささは可愛さだから。でかいだけのアンタと違って」
バーカと睨みあう二人を見て少しだけ笑みが漏れた。アルミリアがこちらを見やる。
「……余裕はできましたか」
「……ついさっきまで全く余裕はなかったよ」
「笑えるならそれでいいです」
「……悪かった」
「いいえ、気にしてませんから」
いたずらっぽい目をした彼女の視線から逃れるように視線を逸らした。頭を失ったゾンビドラゴンは静かに腐臭を撒き散らしながら沈黙している。徐々に回復しつつある両腕をかすかに動かしながら、今度こそ実家へ向かおうと腰を上げた。