守りたいんだ
茉紘の声が震えていた。炎は感情を表しているのだろうか、ついたり消えたりしている。茉紘が討伐依頼に固執する理由を、ここにいる誰も知らなかった。それでもなお、茉紘が最年長者として全員を生かそうとしてくれているのを知っている。
集中力が途切れかけていた。腕の感覚はほぼないに等しい。アルミリアの魔力調整が終わるまでに持ってくれることを祈った。
ふと、俺はどうしたいのだろうと考える。こんなに必死こいてたった一匹のゾンビドラゴンを倒して何になるのだろう。茉紘の言う通り、今の俺たちは不利過ぎた。
「生きるさ。俺は、絶対に。……行くぜ!」
駆け出したクオリアの足は揺れていた。この四人の中で前線へ行けるのはクオリアと茉紘だけだ。動揺している茉紘に期待はできない。クオリアだけが今は頼りなのだ。
茉紘が手を伸ばす。クオリアの服をつかもうとしているのは明白だったが、するりとその隙間を抜けていった。茉紘の目には今、一体誰が写っているのだろうか。アルミリアがその背中をトンと叩いた。クオリアの体が浮く。
「茉紘」
「……今すぐやめて、今すぐ逃げよう。こんなの絶対無理。アンタ、クオリアが死んでもいいの!?」
いいわけない。たとえ少し因縁の感じる従姉妹でも死んでいい命なんてどこにもない。俺は今何をしたい? 復讐か? 違う。ただの討伐か? 違う。今、俺のしてる行為は何になる?
「……たいんだ」
浮き上がったクオリアの体は不安定ながらも檻の中のゾンビドラゴンへ向かっていく。檻の隙間からゾンビドラゴンの足が出た。左手に持っていた斧に巻きつくようにそれが迫る。左腕の力だけで横に薙ぐとゾンビドラゴンの足は一つ、地面に落ちた。
「守りたいんだ」
俺がしたいこと。あの時できなかったこと。この国を、俺の故郷を、かつての思い出が詰まった地を、俺は、ずっと。
「守りたいんだ!」
息を吸い込んで魔力をさらに流しこむ。ゾンビドラゴンの体当たりは強まっていく。苦しい。逃げ出したい。でもここで、アレを倒せば脅威が一つ減る。守れる。あの時できなかった、守ることが、俺にもできる。
「ええ。私も」
がくんとその体が崩れ、地面に膝をついたアルミリアがはっきりとした声で呟いた。クオリアの体勢が一瞬崩れる。
「わ……たしは、中途半端なアンドロイドだから、できることをしたい。誰かの大切なものを守れるなら、私だって、守りたい……!」
クオリアは空中でさほど抵抗しなかった。焦っている様子も見せない。すぐにアルミリアが体勢を戻し、クオリアの右腕が動く。
「……バカばっかり」
声と同時に茉紘は走り出した。ゾンビドラゴンの尾が燃える。翼が燃える。残っていた足が燃える。ずれたメガネの端でクオリアの表情が見えた。
茉紘のクナイがゾンビドラゴンの腹に刺さる。そこから炎は広がっていき、体を包み込んだ。暴れ始めたゾンビドラゴンの背中からクオリアは鉄パイプを突き刺す。そして。
「頭! 落としなさい!」