01


 がたんと体が椅子から落ちて尻餅をつく。机の上の資料がバラバラと体の上に降った。ため息をついて散らばった資料を整理する。まったくどうしようもない、また居眠りをしていた。
 研究室の中には俺以外の姿がなく、いつも通りの静けさを保っていた。……ように思えたものの、どうにも外の様子が騒がしい。作業は終わっていないものの、そっと扉をあけて外をのぞいた。
 感情が渦巻いている。焦り、不安、怒り、苛立ち。そして無関心も。何かが起きているのはわかるものの、それぞれがマイペースに行動しすぎていて何が起きているのかはわからなかった。
「あ……あの」
 適当にその辺を通った人に話しかけた。普段ならこんなことは絶対にしないけど、ただ事でないことはわかるから仕方ない。
 森のような髪の毛を横に一つでくくったその人は快く返事をした。
「なにかしら」
「何が起きてるか、わかりますか」
 見たことはあるけれど名前は知らない人だ。葉っぱのような耳がひょっこり髪の隙間から覗いている。若葉のようなシャツとスカートは大きな白衣の中にほとんど埋もれていた。
「閉じ込められてしまったようですよ。魔法も使えないんだとか」
「……はぁ」
 わけがわからないという顔をした僕に彼女は申し訳なさそうに頭を下げてさっていった。それ以上はわからないということなのだろう。
 そういえば兄はどこだろうか。神出鬼没な兄は特定の研究室にいるということもしない。あの研究室にいなかったということは、きっと他の場所にいるのだろう。外に行ったりはしていないだろうか。不謹慎かもしれないが、ちゃんとこの中に閉じ込められていてくれているだろうか。また昔のようなことになったら、と思うとどうしようもなく不安に駆られる。
「……兄さんを探そう」
 ひとまずそのまま近くの部屋を覗く。ぱちぱちと爆ぜた音がしていたのには気づいていたが、想像したくなかった。あわてて引火しかけていた火薬草を手ですくい上げると音が止む。ほっと胸をなで下ろして部屋を見回したが、さほど広くもないその部屋に兄さんがいるはずもなかった。

ユズリさん(@4673kanata)



prev back next