
02
ざわめきの中を歩くのは苦手だ。兄さんの後ろにいれば兄さんの声だけを聞いて歩けるけど、兄さんがいない今どうすることもできない。背中を丸めて顔を下げ、できるだけ周りと関わらないように歩いた。
次にめどをつけた部屋に入ると、地面に緑色の何かが散乱していた。近くに転がっていた袋を手に取ると、そこには火薬草の文字。何かの表紙に袋が破れて散乱してしまったのだろう。
「……めんどくさい……」
このまま放置していこうかとも思ったが目に入ってしまったからにはしょうがない。しゃがんでそれらをかき集める。すぐそばに空の袋を見つけ、その中へ次々と入れて行った。兄さんどころか兄さんの気配すらもそこにはなくて、なんだか空回りしているようで情けなくなる。
なんとか集めきったそれをポケットに押し込み部屋を出た。また同じように無言で歩く。そのとき。
「わ、」
ちょうど死角になる曲がり角で前から来た指導員と見事にぶつかった。体躯だけは無駄に育ってしまった僕の体に弾き飛ばされ、その人が尻餅をつく。やってしまった。ごめんなさい、と謝る前に手を差し出していた。
「大丈夫、ですか」
「……うん、大丈夫」
手を握られた時、その冷たさが病人を想起させて少し怖かった。ぐっと力を入れて体を起こす。僕も人のことは言えないが、彼もだいぶ不健康そうだ。
「ごめんなさい」
「ううん……俺もよそ見してたから」
右耳についているピアスが揺れる。首元にも十字架があって、この人は体に穴を開けるのが好きなのだと思った。あんまり関わってもいいことはないかもしれない、そもそも兄さんの知り合いにいなかったような気がするし。
華奢ではあるが怪我はしていないようなのでその場で軽くお辞儀をして別れた。そういえば名前を聞き忘れたなと今更ながら思い出したが、次会った時でいいだろう。
カヅキカナデさん(@Kina_mochi)