入学式
アカデミーの入学式。
ミコトは家がアカデミーから遠いため、少し早めに家を出た。忙しい両親も今日はお祝いのためにと仕事をアカデミーに合わせてくれると言う。
「行ってらっしゃい、ミコト」
ひらりと手を振ってくれるカカシにミコトは満面の笑みで返し、走り出した。その背を見て、カカシはコトハの肩に手を回す。
「うちの子、逞しいじゃないの」
「しっかりしてるもの。さて、今日は早めに仕事、切り上げないと」
「今日は?」
「ナルトの手伝い。また溜まったんだって」
コトハは上忍だが、里外の任務より七代目火影であるうずまきナルトの補佐として事務仕事をしている方が多くなった。体がなまるのは避けたいので、ミコトやカカシとけいこを積んでいる。子育てするためには里外の任務に当たらないことは嬉しいが、気にかかることがあった。
「カカシさんが火影の時は、あんなに家に帰らないことってなかったと思う」
ぽつり、と呟かれた言葉に、カカシは苦笑する。確かに自分が火影を務めていたときは職務に追われてはいたが、タイムスケジュールをしっかりと立てていたため、家に変えることはできていた。それは経験の差と能力の違いということもある。
「ナルトは机仕事には向かないからな。里を家族だと思うために、自分の家族を第一にしていないんだろう」
「あれだけ辛い目に遭って、それでもなお里のために尽くせるのは、ナルトの凄いところだと思う。けど、ボルトくん見てると……」
ナルトの息子であるボルトは家に帰ってこない父に反発気味だ。ヒナタの話も聞いている身としては、ナルトの仕事を減らす努力をすることしか出来ないのが悔しくなる。
「まあ、ボルトにはシカダイがいるから。ヒマワリちゃんの方も今はヒナタがついてやれるからな」
「そうだけど。とりあえず近日中に家に帰らせるためにも今日バリバリ働いてくる。カカシさんは?」
「俺は午前中だけだから。先に帰って家のことしておくよ」
「ありがとう。じゃあ、遅くても日暮れまでには帰るから。おやつは冷蔵庫の中ね」
「りょーかい」
カカシの返事を聞いてコトハも出勤する。出勤はいつも瞬身の術だ。移動時間がもったいない。
火影室に入ると、山のような書類があった。今日のスケジュールはアカデミーの入学式の挨拶が主だ。ナルトがそこから戻ってくるまでに書類を仕分けておかなければならない。
コトハは素早く印を組み、影分身を作って作業を開始した。
所変わってアカデミーのグラウンド。
早めについたミコトは、持参した本を読んで教職員を待つ。一番のりだったのか、他の生徒の姿はなく、静かに本が読めた。
なんとなく、火影室のある場所を見ると、薄茶の髪が見えた。あの髪型はコトハだと気づき、嬉しくなる。こちらには気づかないだろうと思いながら手を振ってみると、コトハは手を振りかえしてくれた。
「何見てんだ?」
「あ、シカダイ、おはよ。ママがいたから手を振ってたの」
「ああ、今日コトハさん、火影室なのか」
「そうみたい」
シカダイと話していると、だんだん生徒たちが集まってきた。教師も少しずつ来て、整列するように指示が出る。ミコトはシカダイの後ろに並んだ。
「なあ、ボルト見たか?」
ひそやかな声で尋ねられ、コトハも辺りを見てから声を潜める。
「見てない。というか、今ここにはいないよ」
最後尾にいるのはコトハだ。前に並んでいる生徒たちの中に、あの目立つ黄みがかった金髪の姿は見えない。何より、ボルトがこの場に居れば、シカダイの隣に並んでいただろう。
「ボルトの奴、俺でも来てんのに……」
「シカマルさん来てるんだから、シカダイはサボらないでしょ」
そろそろ入学式が始まる時間が近くなり、ナルトやシカダイの父で七代目火影の相談役を務める奈良シカマルの姿も見えた。ミコトは歴代火影の顔が彫られた火影岩を眺める。
「パパの顔、今と変わんなくない?」
「そりゃ、コトハさんが若いんだから合わせるんじゃねーの?」
シカダイの言葉にミコトは父の努力があるんだな、とぼんやりと考えていると、遠くから金属の音が聞こえた。この辺りで長い時間金属音を立てられるのは、雷車の線路だけである。
どういうことなのかと考えていると、アカデミーの教師である油女シノが点呼を取り始めた。
一瞬、気が散ったが、目を瞑って耳を澄ませる。右後方を見ると、何やら四角いものが見えた。微かに火花と土煙も確認できる。
あの辺りにあるのはまだ開通されてない線路だ。その上を走っているということは、途中で線路が途切れている部分に差し掛かってしまう。
「やばい!」
咄嗟にシカダイと隣にいたいのじんの手を取り、後ろに下がる。点呼中に響いた声で、アカデミーの教師がこちらを見た。
「上です!」
声を上げると、七代目の頭上を四角いもの……雷車の車両が通過する。
「頭を守って!」
雷車が突っ込んでいる方向は火影岩だ。岩にぶつかれば、崩れる。真下に崩れればグラウンドには被害がないが、それでも小石程度は飛んでくるだろう。
ミコトの言葉に弾かれた様に何人かの生徒はしゃがみこんで頭を守った。
大きな音がして、車両はミコトの予想通り火影岩に突っ込んで止まっていた。しかも、グラウンドにいる張本人・七代目の火影岩だ。
砂煙が止んだ頃、生徒たちは火影岩に近づいて行ったが、ミコトはアカデミーへの順路を確認した。掴んだままだったシカマルといのじんの手をそっと放すと、二人も立ちあがる。
「ありがとう、ミコト」
「いのじん、大丈夫? 急に引っ張ったから怪我してない?」
「平気。助かったよ。サラダたちの方、行ってくるね」
「うん」
いのじんの母はサラダの母と仲がいいので、いのじんとサラダも他の幼馴染みたちより顔を合わせる機会が多い。心配なのだろうとミコトは見送って、シカダイにも怪我の有無を確認する。
「大丈夫だ、サンキュな」
「ううん。念のため、シカマルさんに指示もらって非難した方がいいよね。まだ崩れるかもしれないし」
「だな。ったく、めんどくせー」
心底怠そうに言うシカダイにミコトは笑いながら前方にいるシカマルの方へ移動する。その途中、雷車から出てきた人影は口を開いた。
「へへっ、うずまきボルト、参上だってばさ!!」
声を聞いただけで分かるので、ミコトはそちらを見なかったが、隣にいるシカダイは唖然としていた。
火影であるナルトも、自分の息子の姿に動揺している。
「ったく、あいつ、何って泥の塗り方だ」
「忠告、意味なかったみたいだね」
苦笑したミコトは、シカダイはそのままにシカマルの背を叩く。顎鬚以外シカダイにそっくりなシカマルは、その衝撃で我に返ったのかミコトを見てしゃがんでくれた。
「どうした」
「一応、非難した方がいいのかと思って。アカデミーまでの経路には小石が飛んできたくらいですけど、あれがもっと崩れたら大変だから」
「そうだな。ちょっと待ってろ」
シカマルはミコトに追いついてきた息子とミコトの頭に手を置き、アカデミーの教師たちに指示を出していく。ミコトはそこでやっと雷車を見たが、三代目の孫である猿飛木ノ葉丸がボルトを捕獲していた。
その様子を見ていたナルトにミコトは駆け寄る。
「七代目様。大丈夫ですか?」
ミコトは幼い頃からナルトを知っているが、場所が場所なので、名前では呼ばない。ナルトもそのことに気づいていた。
「大丈夫、だってばよ。それより、よく気づいたなミコト」
「音で」
「流石だな」
いつの間にか指示を出し終えたシカマルがミコトの頭を撫で、ミコトとシカダイを教室まで連れて行ってくれることになった。帰りに火影室に寄るようにも言われる。
「コトハには言っておくから。あとでな」
「はい」
叱られるわけではないと分かっているミコトは返事をして、シカダイと共に席に着いた。